東京から来た小学生が繰り広げる、八ヶ岳でのサマーキャンプ。
2日目のハイライトは木登りだ。
ヘルメットとハーネスに身を固めて、高さ10メートル超のカラマツを登る。
命綱のロープを私に預けて、何の躊躇もなく、スルスル登っていく子がいる。見る間に、小さな背中が枝葉の影に消えていく。
東京湾岸のタワーマンションから来た子も多い。地上100メートルで暮らしていれば、この程度の高さは、何でもないのかも。
でも高みが苦手で、動けなくなる子もいた。落ち着いてゆっくり登りな、と励ますそばから、
「ギブ(アップ)ならギブって早くいいなよ!」
待っている子が、しきりに急かす。こういう容赦ない発言は、女子に多い。
そして男子に多いのが、このパターン。登り始めてすぐ、
「うわ~、アリだ!このアリ、噛まない? もうダメ・・・ギブ、ギブ!」
たかがアリで、3メートル登っただけで、降りて来る。
夕暮れの森でバーベキューをしていたら、突然の雷雨に見舞われた。にわかに雨が強まり、横殴りに降りつける。突然、至近距離で大きな雷鳴がとどろいた。急いで子どもたちを、本部棟に避難させた。
「カミナリこわい~」男の子が泣く。恐怖で、ろれつが回っていない。
でも女子は、意外に怖がらない。バリバリッという雷の轟音にも、「うるさいなあ」。それより、鉄板に残った焼きそばに、未練たっぷり。
そして夕食後は、ナイトハイクの時間。野生動物を探して、夜の森を歩く。
ピーッ
静寂を切り裂いて、鋭い鳴き声が響いた。シカが発する警戒の声だ。
コンビニはもちろん、人工的な光が一切ない漆黒の闇は、初めてだったかも知れない。「怖い」「帰りたい」1年生が、泣きながらしがみついてきた。
中でもはる子ちゃんは、とりわけ内気な子だった。点呼で名前を呼ばれても、返事ができない。木登りでは足がすくんで、動けない。
3日目の朝、子どもたちが騒いている。その輪の中心には、はる子ちゃん。カエルを素手で捕まえて、今まで見せたことのない、満面の笑顔だ。
山登りの最終日も、みんなが急坂にハアハア言っている間、彼女だけは、ひとり別世界。トンボがハエを食べる様子を、熱心に観察していた。
末は生物学者か、昆虫博士か。
サマーキャンプの子どもたちは、アリ、雷、夜の森を恐れた。