にぎやかな家族が、階下に引っ越してきた。
子どもが大声で泣く。飼い犬も負けじと吠える。そして〆に、ママが一喝。
「うるせーんだよ!!!」
見かけ元ヤンキーのママは、廊下で会うと、明るくあいさつしてくれる。基本いい人のようだ。
ここが持ち家だったら、隣人の様子はもっと気になった。でもそこは、しがない借家住まい。いざとなったら、いつでも引っ越せる。だからゆったりと、大らかな気持ちでいられる。
気がつけば、賃貸物件ばかりを渡り歩いて30年余。成田、仙台、バンコク、福岡、東京・・・いま住んでいるマンションが、10数軒めになる。
土地に根を張る生き方に、個人的には恐怖さえ覚える。できればこうして、いつまでも漂っていたい。前世はきっと、モンゴル遊牧民。
「一生懸命」という言葉は、少し前まで「一所懸命」と書いた。一つ所に、命を懸ける。日本人とは、土地や家に執着する民なのだろうか。
「マンションは日本人を幸せにするか」 榊淳司 集英社文庫
著者はこの道30年の住宅ジャーナリストで、かなりの硬骨漢。不動産業界の歪みをバッサバッサと切り捨てていく、痛快な本だ。以下抜粋。
・今の日本に存在するマンションの大多数は、分譲も賃貸も含めて建てる側が「儲ける」ことを何よりの目標として世に送り出されている
某デベロッパーが作る「高級マンション」で、高級なのは価格とエントランス部分だけ。プロが見ればわかる
・東京湾岸タワーマンションの住民は、多くが新興企業に勤める高収入層。彼らが購入した住戸の階数は、成功の証を数値化したもの。高層階ほどエライ
・日本の不動産が多くの中国人に買われるのは、「私有財産の保護」が大きなモチベーションになっている。中国では自分の財産が保護されないから
・マンションは、スペース的に三世代同居ができない。小さな子どもの面倒は、必ず母親が見なければならない。マンションが日本の少子化を進めた
・築10年の大きなマンションの管理組合に積みあがる口座残高は1億円超。どう使うかの権限は、理事長が握っている。管理組合の業務は、一種の利権
・老朽化したマンションは、居住者も高齢化して管理費の滞納が起きる。年金生活者に建て替え費用は出せない。一部の物件は将来、スラム化、廃墟化する
・住宅ローン35年返済というシステムは非現実的。今の時代、誰が35年もの安定収入を期待できるのか。「ローンを払い続ける」しか選択肢のない人生に
・マンションを買う前に、それは自分のためなのか、家族の幸せを願ってか、人生の中でどういう意味を持つのか、理由をはっきりさせておくべき
Honolulu 2019 |
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