社会学者の河合薫が、「日経ビジネス」に記事を連載している。
河合がいつも言うのは、日本には「ジジイの壁」が存在するということ。
最近の記事では、ピルを取り上げている。日本でピル(経口避妊薬)が承認されるのに、実に44年かかった。
立ちはだかったのが「ジジイの壁」。重大な副作用はないという証拠が示されても、変化を拒み、責任回避を優先する“センセイ”方が、執拗に抵抗した。
その反面、バイアグラは、「夢のような早さ」で承認された。
申請から、たったの6か月。
もらったバイアグラを服用した日本人男性数人が死んだのに、だ。
センセイ方の都合の良さには、笑うしかない。
そして、多くの国で市販されているアフターピル(緊急避妊薬)は、国内では医師の処方箋がないと買えない。
72時間以内に飲まないと効果がないのに。
河合は問う。「バイアグラにはカンヨーなのに、女性にジンケンはないのですか?」
ちなみに、ピルが1960年に認可され、やがて既婚女性の半数がピルを飲み始めたアメリカでは、その後「静かな革命」が起きたという。
自分で妊娠をコントロールできるようになった女性たちが、MBAなど大学院への進学を選ぶようになり、どんどん専門的職業に就き始めたのだ。
20代女性が妊娠を1年遅らせると、生涯賃金が10%上昇するという研究結果もある。子どもを産む前に勉学を終わらせ、キャリアを確立するメリットは、それほど大きい。
要するに人間は「自分で決めたい」のだ、と河合は言う。
「自分で自由に決める権利がある」ことが、人生の満足度を高める上で非常に重要である、と。
いまだに日本では、自由にキャリアを選ぼうとする女性たちの前に、無数の「ジジイの壁」が立ちはだかっているように見える。
医師になりたい女性に対して、「女だから」という理由だけで、受験で不利に扱う多くの医科大学。きっと学内に、とんでもなく高い「ジジイの壁」があるのだろう。東京医大は、あわてて女性を学長にしたようだが。
河合は、小中学生時代を海外で過ごした。自分と境遇が似ている。
中年男である自分でさえ、組織や社会でしばしば感じる「ジジイの壁」。
きっと彼女の目には、モンスターのように大きく見えていると思う。