テレビがないと、日々世の中に疎くなる。「最強台風」が西日本を縦断した日も、信州の山中でのほほんと暮らしていた。
ミズナラが風で大きく傾き、地にひれ伏す。今日は空が広いなあ、と感心していたら、部屋の明かりが消えた。停電だ。
とりあえず、ガスと水は出る。夏でもつけている灯油ストーブの炎が、照明代わりに夕暮れの室内を照らす。ガスが止まっても、ストーブで炊事ができそう。
ローソクのほのかな光で夕食。雨音を聞きながら寝る。クルマの音はふだんからしないが、今宵は冷蔵庫の音もしない。原始の闇と静けさが支配する夜。
そして、台風一過の朝。相変わらず電気は来ない。
ケータイもつながらない。基地局の非常バッテリーも尽きたか。
幸い妻のケータイ(au)がつながった。関西空港が水没したらしい。電力会社によると、停電は広範囲に及び、復旧の見込みは「いまだ調査中」という。
友人と会うため、車で下界に降りた。幸い道を塞ぐような倒木はない。折れたカラマツの枝葉が敷き詰められて、国道が緑の絨毯になっている。走りながら、車のバッテリーでケータイを充電する。
標高1600メートルの山暮らしにクルマは欠かせないが、災害時はまさに生命線になる。
午後、蛇口の水が徐々に細ってきた。水がなければトイレが流せない。料理も作れない。停電より、水がなくなることの方が困ると知る。
近くの宿に避難しようとも思ったが、もうひと晩がんばることにする。更新された電力会社HPによると、この森に電気が来るのは明日の夕方だという。
水を節約しながら夕食を済ませ、懐中電灯で本を読む。
そろそろ寝ようと思った矢先、ブ~ンと音がして、冷蔵庫が作動をはじめた。
約30時間ぶりの電気。いつもの電灯の光が、やけにまぶしい。
でもまだ蛇口の水は出ない。ポンプで水を溜めるのに時間がかかるのか。ようやくシャワーにありついたのは翌朝。冷蔵庫の食材は、奇跡的に無事だった。
ネコと一緒に数十年、この森で暮らすサイトウさんは、「台風や雷で数時間停電したことはあったけど、こんなに長いのは初めて。庭の老木が倒れて電線切っちゃって、ウチはまだ停電中です」と言っていた。
以前、1日14時間も停電する街(カトマンズ)で暮らしたことがある。停電には慣れている気でいたが、いきなり止まって、いつ復旧するかわからない今回は、少し勝手が違った。
喉元過ぎて熱さを忘れないうちに、さっそくLED懐中電灯と小型ラジオ、電池、ミネラルウォーターを買った。ストーブの灯油と車のガソリンは満タンを心がけて、今度停電になったら、すかさず風呂に水を溜めよう。
登山用ガスコンロも持っているし、近くで沢水を汲むこともできる。山暮らしでの停電は、都会より対処のしようがあると感じた。
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