「男子がひとり足りないよ。ほら、しましまシャツの子」
サマーキャンプ2日目。オリエンテーリングの途中で、振り向いたコトミが思いもかけないことを言った。
急いで班のみんなを集める。その子の名を、誰も知らない。名簿で調べたら、いないのはユウトだ。
子どもたちは、お互いが初対面。前回は、班長の小6女子の卓越したリーダーシップに助けられた。だから油断していた。
現場は、3000メートル近い峰が連なる山脈の中腹。登山道を外れて森に入ってしまえば、見つけることは至難の業だ。あいにく雨も降りだした。
「サマーキャンプの小学生が行方不明」「主催者のずさんな運営に問題」
明日の新聞の見出しが頭をよぎる。
するとイカが、声を限りに呼びかけ始めた。
「ユウト~」「ユウト~」
彼にはちゃんと名前があるのに、なぜか自分を「イカ」と呼べ、という。
以下、イカ。
思ったことは、すべて口に出してしまうイカ。甲高い声で四六時中しゃべっている。「イカうるさい!」と、いつもコトミに怒られる。コトミが小2でイカは小5。立場が逆転している。
取るものもとりあえず、ユウトを探す。すると道の脇に、オリエンテーリングの得点となる旗が見つかった。「やった、46点ゲット!」男子たちは旗探しの方に気を取られて、われ先に駆け出していく。
「ユウトがいないこと、皆すっかり忘れちゃったね」
コトミがボソッとつぶやいた。
「みや~」「みや~」
後方で、イカが私を呼んでいる。どうせキノコでも見つけたんだろう。
「みや~」「みや~」
彼は常に騒いでいるから、肝心な時にだれも振り向いてくれない。
オオカミ少年そのものだ。
「みや~」「みや~」
・・・あんまりうるさいから振り向いた。
怒った顔をしたイカの傍らに、しましまシャツの少年が立っている。
ユウト!
皆とはぐれてから、ユウトはきのう班で作った秘密基地にいたという。髪の毛が雨に濡れ、顔に張りついている。よく動かずに待っていてくれた。
でかしたぞ、イカ。推理を働かせて、ユウトを見つけてくれたんだね。
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