お年寄りを病院に送る車内での、とてもよくある会話。
「あなた方ボランティアのおかげで本当に助かるよ。でもまだ若いのに・・・仕事はしなくていいの?」
「仕事は家でやるから大丈夫ですよ」
「そう。お店でもやってるの?」
「いえ株式投資です」
女性はここで、たいてい絶句する。そして、
「あそこの小学校、サクラが満開ね」
まるで何事もなかったかのように話題を変える。
同乗者が男性の場合は、いろいろ聞かれる。でも話はかみ合わない。彼らの頭の中では、パソコンで売買を繰り返すデイトレーダーがイメージされている。
株式投資は大好きで、大事な収入源だが、あまり売買はしない。近年の研究でも、ひんぱんに売買を繰り返す投資家ほど損を膨らませることがわかっている。
マーケットでは初心者もプロも関係ない。百戦錬磨の機関投資家らの中に入っていけば、カモにされるだけだ。
並みいるプロを相手に100回トレードを繰り返して、なんとか51勝49敗で勝ち越したとする。でも100回の取引すべてに売買手数料がかかり、51回の儲けからは税金を取られる。短期売買は割に合わないのだ。
もうひとつの方法は、株式投資信託で世界中の企業をまとめ買いし、ひたすら持ち続けること。伸びる会社もあればつぶれる会社もあるが、均せば長期的にはGDP成長率+αのリターンが得られる。歴史が証明している。
さらに、持ち続ければ売買手数料を払わなくて済むうえ、売るまでは税金もかからない。さらに非課税口座を使えば、毎年の配当金もそっくりもらえる。時間の経過とともに、複利のマジックがじわじわ効いてくる。
ただこの方法では、ひと晩でお金持ちになることはできない。そして退屈だ。投資が大好きなのに、手出しできないのがジレンマだ。
そんな私の生業を、うまく人に伝えるのは難しい。時々、火星人を見るような目で見られる。自分もカブをやってみようという人は、ひとりもいなかった。
だが最近、「私に投資を教えてください」という人が現れた。福祉施設で働きながら資格取得の勉強もする、努力家の20代だ。
「一時的な損に耐えられる?」「大丈夫です」
私の「ほったらかし投資法」を伝えたら、すぐに証券口座を開いた。この人は本気だ! やっと、孤独な旅の道連れができそう。
10年前、市場の暴落に巻き込まれた時は、投資額の半分が一瞬で吹き飛んだ。投資に絶対確実はない。でもそれは仕事や結婚生活など、人生のあらゆる側面に等しく言えることだ。
「この世で確かなものは死と税金だけ」━ベンジャミン・フランクリン
ようこそリスクの世界へ。
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