2018年1月27日

サイゴンでは走らないほうがいい・・・かも


 午前6時30分のサイゴン。

 聖マリア教会を横目に見ながら、ジョギングで統一会堂を目指した。

 街は車とバイクで溢れている。今回の旅で泊まった別のホテルは朝食付だったが、なんと5時30分から開いていた。ベトナム人は、朝がとても早い。

 フランス統治時代の名残か、並木道とカフェが多い。すでにカフェは満席のにぎわい。路上の屋台では、パクチーがたっぷり挟まったベトナム式バゲットサンド「バインミー」が飛ぶように売れている。

 サイゴンの朝のラッシュは、道という道が、車とバイクで埋め尽くされる。そして赤信号でも、右折するバイクが突っ込んでくる。歩行者用の信号が青でも、こちらが一人だと多勢に無勢で、横断は命がけだ。

 そして問題は、信号のない四つ角が多いこと。同じ方向に向かって歩く市民も見当たらない。仕方なく車をやり過ごし、バイクの密度が薄くなったタイミングで、わざとゆっくり道を渡った。そして、バイクが私をよけてくれるのを祈った。

怖いからといって一歩を踏み出さなければ、永遠に道を渡れない。

 朝の歩道を歩いたり走ったりしているのは、なぜか私だけ。地元の人は、隣のタバコ屋にさえバイクで乗り付けるようだ。自分の足で歩くのを徹底的に厭う、暑い国の民。タイ人と同じだ。

 車道が渋滞して動かなくなると、バイクの群れが歩道を走る。一度は小学校近くの歩道で、後ろに子どもを乗せた2人乗り、3人乗りのバイクに包囲された。自転車で歩道を走る学生に目くじら立てた日本での私が、バカらしくなってきた。

何度も難関をくぐり抜けて、やっと統一会堂を周回する道にたどり着く。もはや走る気力が残っていない。たらたら歩いていたら、トレーニング中の女子高生たちに、どんどん抜かれた。

少しでも道を渡る回数を減らそうと、帰りは別の道へ。案の定、道に迷う。頼りのスマホが衛星を把捉できず、数日前に使ったバンコクの地図のまま動かない。

ヒマそうなおじさんたちが、プラスチックの椅子に座って通りを眺めている。計3人に道を訊いた。

「グエンティミンカイ通り、あっち?」「おお、グエンティミンカイ通り!こっちだ」

 それぞれが指さす方向に進むが、ますます景色に見覚えがなくなっていく。たぶん、私の発音が悪いせいだ。進退窮まった。そのうち、予約してあるダラット行フライトの時間が迫ってきた。

 アパートの鍵と一緒に、5万ドン札(約250円)がポケットに入っていた。通りがかりのタクシーを停めると、幸い運転手は、私のアパートを知っていた。

 やがて車窓が、見覚えのある近所の風景を映し出す。心の底から安堵する。3キロ近くも見当外れの方角に走っていた。

 こちらのタクシーは、初乗り50円。

早朝の小さな冒険は、150円でリセットされた。



0 件のコメント:

コメントを投稿

自然学校で

  このところ、勤務先の自然学校に連日、首都圏の小中学校がやってくる。 先日、ある北関東の私立中の先生から「ウチの生徒、新 NISA の話になると目の色が変わります。実際に株式投資を始めた子もいますよ」という話を聞いた。 中学生から株式投資! 未成年でも証券口座を開けるん...