2017年12月2日

ハワイは楽園


 ハワイといえば、芸能人の御用達。まさか自分は行かないと思っていた。

 新聞社にいた頃の、ある日曜日。前夜は宿直で会社に泊まり、眠い目をこすりながらテレビをつける。すると、テロップが流れた。

「漁業実習船と米原潜がハワイ沖で衝突 行方不明者多数」

 たまたま数か月前に米国出張に行き、アメリカの取材ビザを持っていたのが運の尽き。そのままホノルル行き便に乗った。

 こういう時のために、パスポートは会社に置いてある。因果な商売だ。

 真冬の東京から常夏のハワイへ。着替えを買う間もなく、その後の数日間を長袖シャツとコーデュロイのパンツ、といういで立ちで過ごした。

 この事故で実習船は沈没、高校生ら9人が亡くなった。家族の到着から、米潜水艦艦長を裁く軍事法廷が始まるまで、ひと月をハワイで過ごした。

 観光シーズンたけなわで、ホテルの空き部屋探しには苦労した。ひと晩、ふた晩とホテルを泊まり歩いた。

 そのうち我がロサンゼルス支局長が、悠然と到着した。取材班に「ハレクラニ」という、妙な名前のホテルを手配してくれた。

 中庭では毎日、日本人カップルが結婚式を挙げている。ウェディングドレス姿の新婦の脇を、私はいつも撮影用の脚立を担いで駆け回っていた。

 帰国後その「ハレクラニ」が、ハワイ随一の格式を誇る高級ホテルであることが判明。何も知らずに2週間も泊まってしまった。

 ある時、他社のエースカメラマンとされる人物が、憔悴しきった遺族に向けてストロボを連射させた。撮らなくていい場面で。ニヤニヤ笑いながら。

あの時ほど、報道カメラマンという自分の職業を呪ったことはない。

殺伐とした取材現場に、時おりとても心地よい、乾いた海風が吹き抜けた。

確かにハワイは楽園だ。認めたくないけど。

TraveLife」(マガジンハウス)の著者、本田直之氏は1年の半分をハワイ、3か月を東京、2か月をヨーロッパ、1か月をオセアニア、アジアなどの国で暮らす。

 張り合うわけではないが、私も1年の7か月を湘南、3か月を信州、2か月を東南アジアで過ごしている。

 彼は会社社長。私はただのプー太郎。

 著者によれば、ハワイのエレベーターの多くには「閉」ボタンがない。「閉」ボタンがなければ、押すのを諦めざるを得ない。せっかちな日本人も、だんだんのんびりしてくるという。人の気持ちは伝染する。

「忙しくない街を旅して、人の優しさに触れよう。そして、自分自身も持っているナイスな気持ちを思い出し、ゆったりした自分を取り戻そう」同感だ。

 この冬から日本~ハワイ間にLCCが就航し、往復2万円台のキャンペーンを始めた。本当に「閉」ボタンがないか、行って確かめてこようと思う。


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