白杖をつくMさんを助手席に導き、市立病院へ。
途中、救急車が対向車線を突進してきた。この街の救急車は、とてもアグレッシブ。
途中、救急車が対向車線を突進してきた。この街の救急車は、とてもアグレッシブ。
サイレンを聞きながらMさんが言う。
「オレも2回ばっか救急車の世話になったらしいんだけどさ、自分ではぜんっぜん覚えてないのよ。急に記憶がなくなって、気がついたら病院のベッドで素っ裸にされてた。ハハハハハ」
とりあえず一緒に笑う。今日は脳外科に行くらしい。
近くのスーパーをブラブラしていて、移送ボランティアの会長に出くわす。東京にいた頃と違って、「スーパーでばったり」が簡単に起こる町だ。
「コーヨーさんが亡くなったわよ」
会長は言い、買ったばかりのマロンパイを私の手に押しつけて出ていった。
コーヨーさん・・・
この春まで、何度か病院に送迎した。酸素ボンベが入った買い物カートを引きずりながらも、自分の足でしっかり歩いていたのに。
いつもはおしゃべりな娘さんが付き添う。一度だけ、車内でコーヨーさんと2人きりになった。「珍しいお名前ですね」と言ってみた。
帽子の下の、剃った頭には理由があった。彼女は尼僧だった。晃蓉と書く。
48で出家し京都の寺へ。修行で山野を駆け、滝に打たれたという。
「お坊さんの何が大変かって、怒りたい時に怒れないのが修行より辛いわね」
「葬式や法事より、車の安全祈願ばっかりやってた。でも息子を亡くした時だけは、自分でお経をあげたわよ」
あの時の会話が最後になってしまった。
ついこの間話をした相手が、あっけなくこの世を去ること度々。
命の脆さに直面して、今更ながら自分のしていることが怖くなる。
重い病のこの人たちを、気安く車で運んでいいものだろうか。何の資格もないボランティアが。
ほんの時たま、わが会長も愚痴をこぼす。
「私たち、障がい者や病気の人を送迎して、ガソリン代プラスαのお金を頂くでしょ。そうすると『ボランティアなのに金を取るのか』って顔する人がいて。嫌になっちゃう」
そう言いながらも、一期一会を大切に、かれこれ20年近く活動を続けている。
湘南のマザーテレサである。
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