・・・飛び立つ気配がない。ニアス空港が、救援機で満杯だという。
インドネシア空軍の輸送機が着陸してきた。担架に乗せられたけが人が、次々に運び出される。頭に巻かれた包帯から、血が滲んでいる。
ニアス島に向け折り返す空軍パイロットと交渉し、乗せてもらうことに成功。しっかり金を取られたが、これぞアジアの寛容だ。
離陸後1時間のフライトで、あっけなくニアス島上空へ。見下ろすと多くの建物が全半壊し、黒煙を上げている。バンコクを出て30時間、ついに現場に到着した。
空港から街までの道は、寸断されている。若者のバイクの後ろに、腹と背に大荷物をくくりつけてまたがった。亀裂を避けながら街に入ると、異様な光景が目に飛び込んできた。
建物が倒壊し、廃虚と化した街並み。死んだ女性の首が、がれきから出ている。抱き合って泣き叫ぶ親子。重機の轟音の中で続く、生き埋めになった人の救出活動。
死臭と砂ぼこりにまみれながら、機械的に写真を撮った。
すぐに夕闇が迫る。宿も全滅、今夜は被災者と公園で野宿だ。
辛うじてつながった携帯電話で、東京に状況を伝える。カメラの画像をパソコンに取り込み、キャプションをつけて電送。だが電波が不安定で、何度も途中で切れてしまう。もう締め切り時間だ。
切り札として背負ってきた重い衛星電話機を出し、宇宙経由で写真を送った。
ふと我に帰ると、すっかり暗くなっている。自宅をなくした人が家族ごとに固まり、黙って地べたに座っている。
言葉が通じないので笑顔を向けると、すぐに人懐こい笑顔が返ってきた。そして男たちが、手早く廃材で、即席の机とイスを作ってくれた。おばちゃんが隣に座り、蚊をうちわで追い払ってくれた。
送信も終わって一息つくと、どこからともなく、カップラーメンと白いご飯が運ばれてきた。急に空腹を感じて、無心で食べた。
みんな笑顔で見ている。食事をする気配がない。
まさか・・・彼らのなけなしの食料を食べてしまったようだ。
やがてすっかり日が暮れた。島中が停電し、何も見えない。赤道直下なのに、夜風の冷たさが身に染みる。
暗闇から手が伸びて、今度は毛布が差し出された。
温もりを感じながら、地べたに寝ころぶ。惨禍を闇が覆い隠して、空には満天の星が輝いていた。
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