2016年5月2日

ロストバゲージ


バンコク在任中の3年間、出張で年100回以上、飛行機に乗った。

いつかは「ロストバゲージ」、預けた荷物がなくなる事態を覚悟した。

実際、3年間で3回スーツケースが消えた。確率的には、搭乗100回に1回ということになる。運が良かったほうかも知れない。

最初の事件は、SQ(シンガポール航空)に乗ったときに起きた。アジアで最も信頼できるエアラインのひとつだ。

美人CAの洗練された機内サービスを受け、定刻にモダンなシンガポール空港に降り立つ。ところが、待てど暮らせど荷物がターンテーブルから現れない。

最後のひとつを乗客が持ち去り、無情にもベルトが停止した。天国から地獄に突き落とされた気分で、手荷物紛失カウンターへ向かう。

係の女性に事情を話し、言われるがまま、用紙にスーツケースの特徴、氏名、連絡先などを記入する。その職員は「見つかり次第連絡し、お泊まりのホテルに届けます」 と慣れた口ぶりで言い、これにて一件落着、と涼しい顔をしている。

ちょっと待った。

「えーと。荷物がなくなったのは、そちらの手違いですよね。今晩、私は着替えなし、洗面道具もなしで寝ることになるんですよ」

するとしばらくして、SQのロゴ入り洗面道具セットとTシャツ、当座の費用として現金数10ドルが、魔法のように出てきた。

ひと言、言ってみるものだ。それにしても、文句を言った客にだけ弁償するSQはせこい。他のエアラインの対応はどうなのだろう。

その日の夜中、無事ホテルにスーツケースが届けられた。バンコクで積み忘れて、後続便で運ばれてきたらしい。数時間、気をもんだほかは実害なく、夕食代をSQに払ってもらって、トクした気分になる。つくづく、自分は安上がりな客だ。

なくなると仕事に差し支えるので、飛行機に乗る時は、持てる限りの商売道具を機内に持ち込む。カメラ2台とレンズ4本、ストロボ2台、パソコン2台、衛星電話、各種バッテリーなどなど。重さにして20キロほど。貨物室に預けるのは、予備の撮影機材と着替えぐらいだ。

搭乗時は毎回、手荷物を座席の上の棚に収納する作業に大汗をかく。
20キロを足元から頭上に持ち上げ続けて、四十肩と腰痛になった。

ちなみに、これだけの大荷物を抱えて乗り込んでも、3年間ほとんどお咎めなし。タイ航空はじめ、アジアのエアラインは実に大らかだった。


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