2015年12月6日

パスポート・パワー


 南の国へと、旅立つ季節がやってきた。

 パスポートを出してみると、ページに余白がない。

 増補分を含めた90ページが、最後の1ページを残して出入国スタンプで埋まっている。有効期限は残っているが、更新が必要だ。

 一時期、2週に1回ペースで海外出張をしていた。

 そういう世界に憧れて新聞社に入ったとはいえ、過ぎたるは猶及ばざるが如し。もう一度、似たような暮らしをしたいとは思わない。

 いまは、いろいろ調整しながら、生活のペースを自分で決められる。これぞ人生。このまま、雇われない生き方を続けたい。

 よくぞ日本人に生まれけり。心からそう思うのは、外国に着いたときだ。

見知らぬ国の空港に降り立ち、イミグレに並ぶ。入国審査は厳重を極め、行列が遅々として進まない。いよいよ自分の番になり、緊張して菊の御紋入り赤パスポートを差し出す。

 何も聞かれずポン、とスタンプが押され、ひとりだけ90秒で終了。

 そういう経験が、1度や2度ではなかった。

 タイに住んでいた時、何度かアフガニスタンに出張した。バンコクにはアフガン大使館がなかったため、その都度マレーシアのクアラルンプールまで「ビザ取り出張」に出ていた。即日発給されないので、毎回2泊3日。今こんなことをしたら、会社の経理に何を言われるかわからない。

 在マレーシア・アフガン大使は大の親日家。面接では「何か困ったことがあったら連絡しなさい」と、カブールの自宅電話番号まで教えてくれた。ビザ更新で一緒になったアフガン人は、国外に出るのがどんなに大変だったかを切々と訴え、どこでも行ける私のパスポートをとても羨ましがった。

 仕事で南太平洋の島に行った時、オーストラリアの空港を経由した。私のパスポートには、アフガニスタンやパキスタン、イランなどの入国スタンプがベタベタ押されている。それを見たイミグレの係官は、即座に私を行列から引き離した。

いつもと全く逆のことが起きた。公衆の面前で、スーツケースの中身を全部ひっくり返され、洗濯前のパンツ含め、所持品を詳細に調べられた。オーストラリアに対する私の心証は急降下した。

「ならず者国家」などと勝手にレッテルを張られた国の人たちは、この種の屈辱を日常的に味わっているわけだ。本当に理不尽だと思う。

カナダの金融機関が発表した「パスポートパワー・ランキング」では、ビザなしで渡航できる国の数を調べている。首位は米国と英国の147か国。アジアのトップは意外にも?韓国で、145か国。日本は143か国で8位だった。韓国とは、アフリカや中南米諸国への外交力で差をつけられたか。

次にパスポートを更新する頃、60歳になる。不慮の事故さえなければ、まだまだ外国に行けるぞ。

夢見る男の横から、妻のひと声

「不慮の金欠で、どこにも行けなくなったりして」



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