2025年8月28日

やられたら、やり返せ!

 

学生時代の同級生Z子さんが、わが森の家にやってきた。

昔からの彼女の印象といえば、「まじめ」「物静か」「しっかり者」「努力家」。

卒業後、実業家の夫と結婚して3人の娘をもうけた。

上の2人はもう社会人だ。

娘さんたちは今、恋多き年ごろ? それとも草食系だったりするのかな。

聞いてみたら、長女と次女にはボーイフレンドがいるという。

 

長女に恋人ができたらしいことには、うすうす気づいていたZ子さん。

そのうち、あろうことか、その彼と、夜中に、自宅の洗面所で、鉢合わせするようになった。

「あ、どーも」

「あ、ども…」

お互い、軽く会釈してすれ違う。

そのうち、冷蔵庫の中身が、異常な早さでなくなるように。

そこで初めて、わが娘の部屋にオトコが住んでいることに気づいた。

カセットコンロを持ち込んで、煮炊きしていたという。

「だって私、昼間は仕事でいないし…」

「それにウチは会社兼自宅で、リビングは3階、娘の部屋は1階だから…」

と、言い訳するZ子さん。

「まさか…ダンナも気づかなかったの?」

「彼はほら、あの通り愛想のない人だから」

夜中の洗面所で娘の彼氏と鉢合わせしても、チラッと一瞥をくれるだけ。

ダンナさまも、特に気にしていないという。

隣にいたK子さん(Z子さんの親友)(同じく20代の娘の母)が、口をあんぐり開けて、Z子さんを見つめていた。

 

そして最近、次女にもボーイフレンドができた。

夜になっても、帰って来ない。

どうやら、彼の部屋で同棲を始めたらしい。

ここまで話したZ子さんが、低い声で呟いた。

やられたら、やり返せ! だよ」

やられたら、やり返せ…?

 

長女の彼も次女の彼も、

「2人とも、とってもいい人」

だ、そうだ…

Cebu Philippines, 2025


2025年8月22日

命の恩人

 

猛暑の東京から、今年もXさんがやってきた。

お盆の帰省客に混じって、赤いTシャツに薄いサングラスの怪しい男が、ホームに降り立つ。

こう見えてもXさん、大手新聞の海外支局を渡り歩き、現在も社の中枢を担う敏腕記者である。遠い目をしながら知的な語り口で、理路整然と話し出す。

「赤坂の△△ホテルにナース兼デリヘル嬢のサトウさん呼んで〇〇〇プレイしてたら…」

実は彼の話の8割が、エッチ系下ネタ。カードキーなしでエレベーターに乗れる(=部屋にデリヘル嬢を呼べる)都内の高級ホテルを、完璧に把握しているからすごい。

「そうしたらナースのサトウさんが『Xさん、前立腺が腫れてるよ』って。検査してみたら、放っておけば命に関わる病気が見つかったんです」

〇〇〇プレイ転じて、福となす。

触診で病変を見つけた看護師兼デリヘル嬢サトウさんは、Xさんの命の恩人だ。

(その後も下ネタが続いたが、当ブログの貴重な女性読者を失うので控えさせて頂きます)

「治療のためのホルモン注射で男性ホルモン値がゼロになったから、最近は煩悩も全くありません」と、Xさん。

その割に、先日も真夜中の銀座・ポンパドゥールで、疲れた顔をした水商売の女性にパンを大量におごって、連絡先を聞き出したという。

どこが煩悩ゼロなんだか。

ま、お元気そうで何よりだ。

コロナ禍以降、銀座の夜の店も12時には閉まるようになった。東京メトロ銀座線の終電は、ドレスの上にコートを羽織った物憂げな女性で満員だそう。

八ヶ岳の森から、大都会の夜を垣間見た。

Xさんは世界を取材して歩き、南米もほぼすべての国を制覇している。

「観光旅行で南米に行くとしたら、どの国に行けばいいですか?」

「なんといっても、コロンビアです」

「コロンビア? へぇー、そんなにいい国なんだ」

「ベネズエラもきれいだけど、あそこは整形が多い」

あ、そっち方面の評価ね。

「私は夜型人間だから、朝はいつもコーヒーだけ」

と言った翌朝、Xさんはゆで卵4個にバターを山盛りにして食した。

彼が去った後の食卓には、大量の卵の殻が散乱していた。

私生活での言行不一致が、記事の信憑性を損なう事態に発展しないか心配だ。

帰りの車内で社説を書くそうですが、くれぐれも、あらぬ方向に筆を滑らせないように…

Bangkok Thailand, 2025


2025年8月15日

逃げ腰スクールカウンセラー

 

中学校のスクールカウンセラーの相談室に、3年生の女生徒がやってきた。

そして突然、軽い調子で

「先生、実は生理が遅れているんだけど、やばいと思う?」と聞いてきた。

12月の初めに知り合った男の子と実はセックスしちゃった。コンサートに行って知り合った子で、本名もどこに住んでるのかも知らない」とのこと。

父子家庭で父親は仕事が忙しく、夜遅くまで帰って来ない。

「パパには絶対話さないで。担任にも話さないで」という。

「もし妊娠していたら、あなた一人ではどうにもならないよ」というと、

「テレクラで金のありそうなおじさんと知り合って援交して、お金をもらっておろす」という。

【あなたがスクールカウンセラーだったら、この生徒に対してどのように対応するか。30分、600字以内で答えよ】

 これは先日、名古屋の心理系大学院予備校で出された問題だ。

「事例問題」といって、大学院入試でよく出るスタイルらしい。

この設問も、実際に東京の某女子大学院で過去に出題されたものだ。

もし、本当に女子生徒からこんな告白されたら?

自分なら、大パニック間違いなし。

女性の養護教諭を探し出して、3秒でバトンタッチしたい。

でも、受験本番で答案用紙にそう書けば、3秒で不合格になる。

大汗かきながら、なんとか600字は埋めたが、支離滅裂な答案になった。

帰宅後にテキストの模範解答を読んだら、プロはこのように対応するらしい。

・早急な対応が必要で、受容・共感的なカウンセリングだけをやっていればよいケースとは異なる

・まず援助交際や不特定多数との性行為など、これ以上自分を傷つけないようにすることを要請する

・中絶に伴う困難、出産する場合の困難などの情報を伝える

・産婦人科はハードルが高いので、市販の妊娠検査薬の使用を勧める

・カウンセラーだけでの対処はあり得ない。養護教諭や担任、場合によっては児童相相談所や医療機関とも連携し、チームで対応する

・「あなたにとって一番良い方法を一緒に考える」というスタンスを堅持して、様々な関係者との連携を模索するための下地作りをする

 

ちなみに、この生徒には「躁的防衛」が見られ、「超自我的な抑制」が弱く、親子関係の不全が根底にある「境界例的心性」が想像される、とのこと。

かろうじて、「養護教諭との連携」だけは正解だったけど…

大学院合格への道のりは、かなーり険しいね。

Nagoya Japan, august 2025



2025年8月8日

100日間世界一周の真実

 

セブ島英語留学で知り合ったドクター・ミワのダンナ(略してDD)が、勤めていた大企業を辞めて、船で世界を一周してきた。

これはぜひ話を聞かなくては! 

夫妻が暮らす和歌山まで行ってきた。

予備校の講義を終え、気温38度の名古屋から西へ。城下町・和歌山は海風が吹き抜けて、意外にも涼しい。ま、名古屋と比べての話ですが。

地元っぽい小料理屋の個室で3人、おいしい魚を頂きながら話を伺った。

DDさんが乗った客船は、定員1800人。3分の2が日本人客で、平均年齢76歳。日本を出港してから最初の寄港地までの間に、3人が亡くなったという。

「そういう死に方、本望かも知れませんねー」と、DDさん。

全財産を船室に持ち込んで、船を住処にして地球をグルグル回っている富裕層もいるらしい。

命が尽きるまで海の上…?

寄港地は全部で17か所。今回の航海では南半球をぐるりと回って、南極の氷も見ることができた。

「ペンギンって、群れで水面を滑空するんです。水族館のペンギンとはぜんぜん違った!」

DDさんが大ピンチに見舞われたのは、マダガスカル。日帰りのつもりで内陸のバオバブ林を見に行った帰り、港に戻る飛行機がまさかの欠航。予定外の1泊を強いられた。その間に、無情にも船は出港してしまった。

着の身着のまま、飛行機を乗り継いで船を追いかけ、なんとか1週間後に合流できたという。

南米の寄港地では他の日本人客が強盗に襲われ、金目の物をすべて奪われた。

貧しい国の強盗たちからすれば、お金持ちが豪華客船に乗ってやってくるのは、まるで鴨が葱を背負って来るようなものだろう。

世界一周100日間の船旅は、一見優雅なようで、実はいろいろあるみたい。

いったん帰国したDDさん、今度はモロッコに3週間滞在。魔窟のようなスーク(旧市街)でホームステイしながら、フランス語学校に通った。

そして先月は、娘さんと2人でスイス・アルプスへ。

糸の切れた凧だ。

その間、ドクター・ミワは「私が稼ぐからいいわよー」とばかり、連続36時間勤務の夜勤を挟みながら、病院で働いたという。

ああ見えてDDさん、よっぽど今まで奥さんに徳を積んできんだろうな。

「さすがに金がなくなった。いま妻に離縁されたらすごく困りますー」

最近、DDさんは料理の腕を磨いて、夕食作りを買って出ている。

「妻には、ご飯がおいしいから家に帰るのが楽しみと言ってもらえます」

がっちり、奥さんの胃袋を掴んでいる様子。

策略家である。

Wakayama Japan, 2025


HIKIKOMORI

  不登校や引きこもりの子に、心理専門職としてどう関わっていくか。 増え続ける不登校と、中高年への広がりが指摘されるひきこもり。 心理系大学院入試でも 、事例問題としてよく出題される。 対応の基本は、その子単独の問題として捉えるのではなく、家族システムの中に生じている悪循...