2024年4月26日

自由な空気

 

セブ島英語留学中は毎日、授業前に近所のフィットネスクラブで汗を流した。

その朝は、留学仲間の女性と一緒にトレッドミルで走る。高校時代は中長距離走の選手だった彼女は今、ジャカルタ在住。日本人学校に併設された幼稚園の先生をしているという。その前はホーチミンの幼稚園で働いていたそうだ。

世界を渡り歩く幼稚園教諭! 世の中、いろんな生き方があるものだ。

 

私が2年前にフィリピンを訪れた時は、ワクチン接種証明、PCR陰性証明、フィリピン保健省の登録証明、コロナ陽性時に入院費用3万5千ドルをカバーする海外旅行保険の証書、がないと入国できなかった。

いまはパスポートだけでOK。やっと自由に世界を歩けるようになった。

 

そのコロナ禍の最中に、マスク着用自由を貫いた公立中学校が栃木県にある。

日本にもこんな学校があったのか…

以下は日経ビジネス電子版に掲載された原口真一校長の記事の要約です。

・校長には学校の方針を決める大きな権限がある。校長が「空気」に流されず、自分の頭で考えて判断し理想とする教育を実践することが重要

・私は学校長として、パニック的に感染対策に走る社会全体の「空気感」だけで状況を判断しないようにした

・「1人の感染者が次に何人に感染させるかの指標」や「陽性者数」などのデータとともに重視したのが科学的根拠。空気感染しないというエビデンスがあるのに、マスクを着用し続けることに当初から疑問を抱いた

・人は吸った酸素のうち3050%が脳に運ばれる。成長期の子どもがマスク着用で生じる酸欠リスクは大きく、免疫力の低下も招く。「話すな、集まるな、触れ合うな」の同調圧力にさらされ続ける子どもがふびんだ

10代という感受性豊かな時間は二度と戻ってこない。その時期に感染対策だけに固執するのは失うものが大きすぎ、学びの質も大きく低下する

・運動会もマスク着用自由。保護者も生徒もほとんどが素顔で競技したり、踊ったり、応援したりした。文化祭での合唱もやった。213月の卒業式もノーマスク。何人もの親御さんから「先生が校長で本当によかった」と言われた

・保護者には丁寧に説明した。私の考えに賛同してくれた保護者が別の保護者に伝えてくれたおかげで、理解がどんどん広まった

・その分、責任も負わなければならない。生徒や教職員に陽性者などが出れば全責任を負うつもりだった

・学びとは「たった一つの答え」を求めるのではなく、一人ひとりが自分の「最適解」を求めること。コロナ禍では一つの答えしか求めず、それを子どもや教育にも強いてきた

・学びとは何なのか、物事を問い直すことがいかに大切か――。大人が、特に「思考のプロであるべき教育者」が、もう一度考えなければいけない

Matsumoto Japan, April 2024


2024年4月19日

褒めて伸ばす 褒めれば伸びる

 

セブ島の英会話学校で接するフィリピン人の先生は、本当に熱心で優しい。

「あなたの th の発音はすばらしい!聞いてて気持ちいい」とか、ちょっとしたことでもベタ褒め。ほとんど褒め殺しに近いが、悪い気はしない。

同じアジア人同士、言葉以外でも通じ合えてしまう部分がある。「まず言葉ありき」の欧米人や、同じアジアでもインド人相手だと、こうはいかない。

まぁ「以心伝心」が通じてしまうのは、必ずしも英語学習に適した環境でない気がするが…

 

名古屋で塾を経営する『ビリギャル』の著者・坪田信貴氏は、1000人以上の子どもを指導した経験から「厳しく接しても人間は育たない」と断言している。

(以下、日経ビジネス電子版の要約です)

・部下を厳しく叱りつける上司が一時的に成績を上げることはあるが、ほめて伸ばす上司とどちらが正しいかというと、答えはほめて伸ばすタイプの上司。暖かく見守らないと、子どもも部下も育たない

・叱りつけてばかりいると、部下は苦手意識を持つ。それでも部下は上司の言うことを聞こうとするが、苦手な人の言うことは無意識に拒絶してしまうので、その結果ポカしてしまう

・私も叱ることはあるが、それは信頼関係を築いてから。いきなり叱りつけたり、説教をしたりすれば苦手意識を持たれて、それで終わり

・子どもは、本気でその子の能力を信じてあげれば全力で返すもの。これは子どもだけでなく、部下もそうだし、人はみんなそう

・一方で、疑うと能力は下がる。悪意を持った人に出会うと、人は自分を隠そうとする。リラックスした状態でなければ、本当の力は発揮できない

・人間は達成したいという欲求よりも、失敗を回避したいという欲求の方が2倍強い。「おまえダメじゃないか」と言われると、それを回避しようとするから、余計うまくいかなくなる

・上司が「お前またミスして。何度言ったら分かるんだ」と言ったとして、では何度言ったら分かるのか。答えは500回。ちゃんとデータを取って調べた。3回か4回言ったぐらいで分かるはずがない

・上司が偉そうにしたりなじったりするのは自分の権威効果を高めようとしているのだろうが、逆効果だし悪循環。『釣りバカ日誌』のように、釣りについては部下を師匠として接すれば、部下も信頼してくれる

以前は辛いことがあっても将来は金持ちになれる、幸せになれるという希望を持てた。でも今はそういう希望が持ちにくい時代。努力しろ、きついことをやれと言われても先が見えないから、厳しく接する方法ではうまくいかない

・ダメな子どもや部下はいない。いるのはダメな指導者だけ

Chino Japan, April 2024


 

2024年4月12日

niche を探す

 

「あなたは sapiosexual でしょ」

セブ島英語留学中、出し抜けに先生に言われた。

初めて聞くその単語の、意味を調べてみる。

…なるほど、確かにその傾向はあるかも!

人は、自分にはない特質を異性に求めるのかも知れない。

 

発音練習や文法の時間になると、途端に精彩がなくなる生徒(←私のことだ)に、先生方は工夫を凝らした授業をしてくれた。

ボホール島出身の先生とは、「ボホール島の観光公害」に関する記事を題材にディスカッション。別の日は、島の名物カカニン(米菓子)がテーマ(先生は大の甘党だ)。レッスン最終日には、自慢のカカニンを頂いた。

その先生は毎週末、NPOに参加して、学校に行けないスラムの子どもたちを教えている。授業ではその時の様子も、熱心に話してくれた。

この学校で働くフィリピン人教師は、全員が大卒。もし彼ら彼女らが日本に来れば、英語話者としては確実に上位5%に入る実力の持ち主だ。

でもここフィリピンでの収入は十分とはいえず、夜間は米系企業のコールセンターで働く先生もいた。

クレーム対応をしていて、電話の向こうのアメリカ人から罵声を浴びることもあるという。

「英語力だけでは十分でない。なにか niche を探さなければ…」

と、先生は言う。

 

「1週間の短期留学も可能」「寮は個室完備」をうたうこの英語学校には、20代~50代の社会人が多く集まった。

10年に1度の慰労休暇を使って毎日9時間、1週間みっちり個人レッスンを受け、最終日の夜行便で帰国していく人もいた。

「海外子会社とのズーム会議でもっと発言したい」

「来月海外で行われる学会で、英語で発表する」

皆それぞれ、目標も明確だ。

 

毎週金曜日に、帰国する生徒のプレゼンテーションと卒業式が行われる。

ある30代男性が、卒業スピーチの途中で絶句した。

頬を涙が伝っている。

彼は勤めていた会社を辞めて、「これからは英語で身を立てる」不退転の決意でセブ島に来ていた。

 

この島では会う人ごとに、彼我の覚悟の違いを思い知らされる。

Cebu ocean park, 2024


2024年4月5日

努力の塊

 

セブ島英語留学では、マンツーマン授業の合間にグループレッスンが混じる。

「初心者クラスに入れられたら、かったるいなぁ」

自分の英語力を棚に上げて、そう思った。

ところがフタを開けてみると、

「あなたのキャリアの、Turning point はいつでしたか?」

「あなたの人生で、Milestone と呼べる出来事はありましたか?」

ノーリー先生(28歳美人・夫と子どもあり)から、笑顔でそんな質問が飛んでくる。日本語でさえ答えに窮するのに。難しすぎる。

ところが。

「グループレッスンの時間って、唯一の息抜きだよね~」

「そうそう、ホッとする~。半分寝てるかも」

ある晩、クラスメートと行ったハンバーガー店で、女子の会話が聞こえた。

ワ、ワタシが毎回、七転八倒してるっていうのに?!

一見控えめなこの日本女性たちは、いったい何者だ。なかなか教えてくれなかったが、しつこく聞いてわかったその正体は、

「職場のサバティカル制度を使ってオーストラリアに留学。ホームステイしながら猛勉強して、1年で英語教授法の博士号を取った」

「キャリアカウンセラーとして働きながら、心理学の最新の知見を知りたくてアメリカの大学院に入学。現地には行かず、オンラインで全ての単位を取得して卒業した。宿題が多すぎて過呼吸になった」

まさか、こんな方々と机を並べていたとは。

世の中には人知れず、大変な努力をしている人がいる。

 

「努力の塊」を目の当たりにして思い出したのが、アフガニスタン出張の折、通訳兼助手としてお世話になったジャワット&ファルハド兄弟だ。

自爆テロが頻発する上に、一歩ホテルを出れば全く言葉が通じないかの土地で、彼らは文字通り命綱となって働いてくれた。

2人はきれいなイギリス英語を話した。ラジオにかじりついて、雑音だらけのBBC海外放送を聞きながら、独学で英語を学んだという。

 

日本に帰れば各種教材が書店の棚を埋め、ラジオ英会話、YouTube、ポッドキャスト、字幕付き映画や海外ドラマにも簡単にアクセスできる。

オンライン英会話だってある。

時間とお金を投資すれば、こうして現地で英語に触れることもできる。

極端な貧困やタリバンの圧政とも無縁の、恵まれた環境にいる私に言い訳はできない。

やるかやらないかは、ひとえに自分次第なのである。

(ある意味、これも過酷な状況だったりして…)



肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...