看護助手の仕事は、朝から夕方まで立ちっ放し。
さらにカロリー消費のために、緩和ケア病棟のある5階から洗濯室や薬剤室がある地下まで、わざと階段で往復している。
デスクワークより、よっぽど性に合う。
医師や看護師がカンファレンスをする月曜午後の1時間が、貴重な休憩タイム。親しくなった患者さんの部屋に行き、ベッド脇のイスに座って、ただ話を聞いている。
そんなある時、「看護師さんは呼ぶとすぐ来てくれるけど、必要な処置を終えると、そそくさと部屋を出てっちゃう」という愚痴を聞いた。
確かに。満床で忙しい日はともかく、そうでない時も、ナースたちは何かとすぐステーションに籠る。
近藤雄生氏(ノンフィクション作家)と岸本寛史氏(医師)の対話「いたみを抱えた人の声を聞く」(創元社)という本で「治療構造」という概念を知り、その謎が解けた気がした。
・「治療構造」…医療者が患者の話を聞く時間に一定の制限を設けるべきという、臨床心理学の考え方。話を聞く側が自身を守り、同時に患者との関係性をいい状態に保つために重要なこと
・一方、別れがつらいから深く関わらないというふうに考えがちだが、しっかり関われたから、しっかり別れることができる部分もある。患者が亡くなった時に尾を引くのは、しっかり関われていなかったという気持ちがある時
・特定の分野について専門家に話を聞く時、うまく聞けるかどうかはどれだけ事前にその分野に習熟できたかといった知識的なことに左右されることが多い
→しかし個人的な話、とりわけいたみを抱える人に話を聞く場合は、知識の有無よりも、相手に対する自分自身の意識や姿勢が問われる
・話し手がいたみや困難を抱えている場合は、聞き手のちょっとした反応や心の動きも敏感に感じ取る。聞く側が日々何を考え、どのような姿勢で生きているかまで問われる
・相槌の打ち方や視線の向け方ひとつにも、聞き手の感情が表れる
・「意識の水準を少し下げて話を聞く」…臨床心理学者の河合隼雄氏がよく言っていたこと。少し明るさが落ちた部屋に身を置くような感覚
・ひとつの言葉の中に、いろんな「響き」を聞き取っていく。そのために、こちらの意識の照度をちょっと下げる
・「相手の話をまずは聞く」。判断を宙づりにして、まずは聞く
・「死出の旅路は一人」…死にゆく人の気持ちは、やはりその人にしかわからない。わからないということを受けとめて、でもできるだけ寄り添い、気持ちを想像し、自分なりにギリギリのところまで一緒に行って見送りたい
・患者さんの語りを通してその心に触れ、いたみに共振すること。それが医療者にとって何よりも大切なこと
Pokhara Nepal, 2023 |