2023年9月29日

悪夢の社員旅行

東京の会社で働いていた時の同僚Fさんが、近所にセカンドハウスを買った。

森の小径を歩いて10分ほどの、目と鼻の先だ。以来、ひんぱんにBBQパーティーに呼んで頂いている。

Fさんは当時、女性報道カメラマンの草分け的存在だった。彼女が若くして退社して以来ご無沙汰していたが、ここ信州で30年ぶりに交流が復活。

こんなこともあるんだなぁ。

 先日のBBQでは、当時の社員旅行の話が出た。

「あれはひどかったよね~」「本当に!」

その会社では、社員旅行をなぜか海軍用語で「全舷」と呼んだ。

泊まりがけで有名温泉地に繰り出し、夜は大広間に一同会して、飲めや歌えの大宴会。酒の席では無礼講とばかり、浴衣をはだけた上司が醜態をさらした。

しかも女子社員がいる前で、平気でコンパニオンをはべらせる。

私は目撃してないが、ストリップが演じられた年もあったという。

女性陣はたまらず別室に避難。まとも(?)な神経を持つわれわれ若手男子社員(←当時)にとっても、全舷は拷問だった。

しかも家族に不幸でもない限り、不参加は許されない。休日召し上げ。

ある年、全舷当日に宿直で会社に残ることになった。合法的に?行かなくて済むと知った時は、思わずバンザイ三唱した。

 

信じがたいことだが、この世の中には、社員みんなが楽しみにしている社員旅行もあるという(以下、日経ビジネス電子版より抜粋)。

長野県伊那市の寒天メーカー、伊那食品工業では、国内と海外、毎年交互に社員旅行に行っている。

まず社員にアンケートを取り、会社がいくつか行き先を決める。いろいろな行き先の中から、社員が各自行きたいところを選び、班ごとに出発。

社員旅行のルールは、国内の場合も海外の場合も1つだけ。1回だけ班の全員が集まって食事をする。あとは全部自由行動。

でも意外にみんな集まって行動する。自分で選んでそうしているから、つらくない。

行き先ごとに作った15ほどの班には、さまざまな部署の社員が集まる。各班のメンバーは事前に集まってどこに行くのか、どのように行くのかなどを話し合う。言ってみれば部門横断のプロジェクトのようなもの。

社員が楽しんで参加し、他の部署の社員とも交流を深めることができる。

遊びに行っているのだから工場見学をする必要はないのだが、自分たちで見学先を探してきて勉強するケースも。

…確かに。こういう社員旅行なら、ぜひ参加したい! 

ちなみにこの伊那食品工業は、48年連続増収増益の超優良企業。

天下のトヨタも見学に訪れるそうだ。



2023年9月23日

ドンキは苦手だけど…

 

「ドン・キホーテ」が苦手だ。

狭い通路の両側に、ぎっしりと無秩序に積み上げられた商品群。

(一説によると、あの乱雑さは確信犯。「わざと」やってるらしい)

どんどんどん、どんき~♪ 騒々しいBGM

澱んだ店内の空気。

人混み。

人の多いところが苦手で、いつも寂れたスーパーを選んで最短時間で買い物を済ませる私にとって、ドンキでのショッピング体験は罰ゲームそのものだ。

ところがこの「ドン・キホーテ」、34期連続で増収増益を達成。いまや日本の小売業で売上高第4位だという。

8年前にシンガポールに移住した「ドン・キホーテ」創業者兼最高顧問・安田隆夫氏のインタビューが、日経ビジネス電子版に載っていた。

さすがは高成長企業のトップ、いいこと言うなぁ。

ドンキは好きじゃないけど。

記事の一部を紹介します。

 

・うちはメイトさん(アルバイトやパート)の意欲とレベルが高い。社員以上に、時給で働いている人たちのほうが一生懸命やっている。それは、最大限の誇りと自己承認(欲求)をかなえられる仕組みができているから

・ドン・キホーテで働くということは、その地域に住む自分の親類縁者、知人がみんな来るということ。うちの場合、メイトさんに直接、仕入れる商品を選んでもらっている。それは社会的承認の集大成

・性善説に基づいて任せてしまえと。1から10まで、とことん丸投げしてみようと。現場への徹底した権限移譲がある

・私自身も死に物狂いで、工夫を凝らして仕事をしてきた。(社員を)同じような環境に置いたら、人間って変わるんじゃないのかなと思ったら、案の定、変わった

・アジアでは「DON DON DONKI」という店舗を増やしている。日本のドン・キホーテとは違う、日本産品に特化したスペシャリティーストアだ

・日本の食は、「第2の自動車産業」になり得るほど期待できる。でも世界の日本食レストランのほとんどが外国人による経営。寿司にしても、ここまで世界的なコンテンツになっているのに、日本企業が活躍し切れていない

・縮む日本人の胃袋にいくら売ろうとしても、たかが知れている。海外で売らない限り何にもならない。だから「DON DON DONKI」を通じて、日本の農畜水産物の輸出を広げていこうと試みている

特に米を海外に売らないと、日本の里山風景が根底から崩れ去ってしまう

Darumasanga-koronda! in Yatsugatake, 2023


2023年9月15日

日本にジョブズがいた時代

 

「戦前の大金持ち」 出口治明編 小学館新書

昼休みに勤務先の病院の図書室で、たまたま見つけた。

この本によれば、明治から昭和初期にかけての日本は、今よりずっと自由闊達な社会だったようだ。

何しろ当時は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ並みの起業家がゴロゴロいたというのだ。

例えば、梅屋庄吉(18681934)。

梅屋は14歳の若さで上海に渡り、のち香港とシンガポールで写真館を経営。当時最先端のメディアだった映画ビジネスに着目し、巨万の富を築く。

そしてその金を、「辛亥革命」で清朝を倒そうとした孫文に惜しみなく送金した。欧米列強によるアジア支配に立ち向かうために。

「革命プロデューサー」だ。

例えば、薩摩治郎八(19011976)。

薩摩は19歳でイギリスに留学。のちフランス・パリに渡り、「バロン薩摩」として社交界デビュー。実家の木綿問屋が稼いだ金で豪遊しまくった。

彼が1920年代の10年間にパリで使った金は、現在価値で800億円に上るという。

そして豪遊の傍ら、画家の藤田嗣治らパリ在住の日本人芸術家を、パトロンとして支えた。

例えば、土倉庄三郎(18401917)

“吉野の山林王”と呼ばれ、林業で莫大な富を築いた土倉。女子教育にも熱心で、次女を7年間、明治時代の奈良県川上村からアメリカに留学させている。

また土倉は、薪として切られる寸前だった吉野山のサクラ3万本すべてを、大阪商人から買い戻した。その時の土倉の言葉が、

「いつか外国人が吉野山にサクラを見に来ることもあるだろう。その日までサクラを守らなければならない」

100年以上も前に、現在のインバウンド需要を予見していたとは!

 

この本の編者・出口治明自身も、インターネット生保を立ち上げた起業家だ。現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務めている。

出口は本書で、この国には今こそ梅屋や薩摩、土倉のような「型にはまらない日本人」が必要だと説く。そしてそのカギは、「飯、風呂、寝る」の生活から「人、本、旅」の生活への切り替えにあるという。

長い時間をかけて労働し、家と職場を往復しながら「飯、風呂、寝る」の生活を繰り返していては、イノベーションを起こすようなアイデアは生まれない。

早く家に帰り、空いた時間を活用して「人、本、旅」とたくさん触れ合うことが、サービス業が中心になった現代の日本人に合った働き方だ、という。

そして「そのために重要なのは、長時間労働をやめること」

Summer camp in Yatsugatake, 2023


2023年9月8日

現代人の脳は20万年前のまま

 

わが家は市街地から車で30分、標高差800mを登った森にある。

周りは、夏の別荘地。寒くなると、近所に誰もいなくなる。

今まで、こんな山奥にも新聞が届いた。でも、ついに販売店が音を上げた。「お宅への配達をやめます。今後は郵送でお届けします」と通知が来た。

それからは、月曜日の新聞が水曜日の午後に届くようになった。週末は郵便配達がないから、土曜日の新聞が翌週の水曜日に届く。

もともと、テレビは持っていない。

世捨て人生活も、いよいよここに極まれり…

 

遅いインターネット経由で読む日経ビジネス電子版に、「人類の体との脳は20万年前のまま」という面白い記事があったので、簡単に紹介します(筆者は長谷川 眞理子・前総合研究大学院大学学長)。

・私たち人類は約20万年前に誕生した。都市文明が発展したのは、あくまでここ1万年。19万年はずっと狩猟生活を続けてきた

・現代の先進国に暮らす人も、アフリカの農耕民族も、南米の奥地で狩猟採集を続ける人も、20万年前のヒトと遺伝子構成は同じ

20万年前のヒトの赤ちゃんをタイムマシンで現代に運び、先進国の家庭に養子として迎え入れれば、現代人と同じように育つはず

・変化したのはあくまで技術で、私たちの体や脳ではない。技術は皆に共有され、次の世代に引き継がれて改良を重ねていくから、速く進歩する。一方、人の感情や欲求は20万年前のまま

・人工知能(AI)が登場しているように、社会は技術の進歩によって変化する。生き物としての本来の人類と現代社会との大きな乖離が、精神疾患や生活習慣病などのひずみを生んでいる

・狩猟採集社会では、日の出と日の入りと季節の変化だけが生活のリズムを作る。人々は好きなように振る舞い、気ままに暮らしていた。今は時計とカレンダーに制御され、決まった時間に学校や会社に行き、決まった時間に帰る生活

・一日中座って勉強や仕事に向き合うのは人間本来の姿ではないのに、そうした現代社会の枠にはまることができない人は、精神疾患があると見なされる

・狩猟採集社会では砂糖や塩、脂肪はなかなか手に入らなかったから、食べられるときに多く摂取できるよう「おいしい」と感じるようになった。現代は食べ物が豊富なので歯止めがかからず、生活習慣病になってしまう

・環境が早く変化しすぎたせいで、人類の方が追い付いていない

・私たちの体と脳は20万年前のまま、という視点を持つべき。技術が生み出した現代社会との間に生じるギャップをつぶさに見ていけば、対症療法ではなく、より自然で根本的な解決策が見つかるはず

Chino Japan, summer 2023


2023年9月1日

サマキャン点描

 

都会育ちの小学生が、八ヶ岳の森でテント生活を送るサマーキャンプ。

この夏も、各コース25人が6回に渡って、引いては寄せる波のようにやってきた。

・酷暑の東京から、涼風吹き渡る森に降り立ったリュウヤ(小4)。

とっても嬉しそうに発した第一声が、

「とりあえず、塾の宿題から逃げられた!」

そこですか…

・3班の班長に指名されたカンタロー(小5)が自己紹介で、

「サマーキャンプでいちばん楽しみなのは、おみやげタイムです!」

なんの忖度もなく、宣言した。

確かに、霧ケ峰をハイキングした後、売店でおみやげを買う時間が設けられているのだが…

あなたは…そこですか…

・ハイキングの朝、山頂で食べるおにぎりを子どもに配った。すると、

「塩おにぎりしか食べられないのに、塩おにぎりがない!」

「買ったおにぎりは食べられない!」

という抗議の声が上がった。いずれも女子だ。

買ったおにぎりが食べられない? 添加物が心配なのかな。

「じゃあ今朝のロールパン持っていく?」(スーパーで買ったやつだけど)

「うん、それなら持ってく!」

要するに、ごはん好きの子が多い中で、数少ないパン党なのね。

・下山後のおみやげタイムは、予想以上の盛り上がりを見せた。品物をお小遣いの範囲に収められない子が続出。われわれスタッフがレジ前に陣取って、電卓片手にひとりひとり、合計金額を計算することになった。かなり忙しい。

そこにサクラコ(小1)が、「コアラのマーチ」やポテトチップスなど、どこでも買えるようなお菓子を両手に持って現れた。

「サクラコちゃん、それ自分用でしょ! おみやげっていうのはね、パパやママに買うものなんだよ」

「……」「……」

サクラコ、あくまで無言で押し通す。

その鉄の意志に、降参。

・「パパとママにはおみやげ買うけど、おねえちゃんには絶対に買わない。大っきらいだから」(マナカ・小5)

そういうお年頃なんだね。

そのうち変わるさ。

・おみやげに冷感タオルを選んだのは、コウキ(小1)だ。

「暑い中、キッチンカーで働いてるママにあげるんだ」

…ほっこり。



肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...