ネパールのバス旅は、とにかく面白い。
左の窓には谷底から尾根上まで、「耕して天に至る」段々畑が広がる。
右の窓からは、ネワール族、タマン族、グルン族、チベット系諸民族など、色鮮やかな民族衣装の人々で賑わう市場が見える。
そして峠に登れば、はるか彼方に雪をまとって現れる、ヒマラヤの峰々。
ダイナミックに移り変わる景色から、目が離せない。
ああ、それなのに。
わが山岳部期待の新人、DJモトは、最新型iPhoneを大容量バッテリーにつないで、その小さな画面から一時も目を離さない。
外界からの情報をシャットアウトして、ず~っと下を向いたままだ。
いったい、この人とは会話が成り立つのだろうか。最初は不安だった。
でも身長182センチ、山岳部とDJサークルを兼部する異色の19歳は、さりげなく私のザックを持ってくれる、実は気配りの人なのである。
そして、歩いている時以外、いや時には歩いている時も、常に顔面から20センチに位置するiPhoneで、彼が何を見ているかというと…
ソロクライマー山野井泰史の「垂直の記憶」kindle版を読んで唸っていたり、山岳気象専門家・猪熊隆之氏の著書で、せっせと勉強していたりするのだ。
よっ!現代版・二宮金次郎!
…褒めすぎか。
他の部員も例外なく、スマホ視聴時間は私の10倍長い。ヒマラヤ山中、とっくに電波が届かない場所でも、スマホばかり見ている。
でも、例えばヨコ(2年・男)は、8000m峰14座を6か月でスピード登頂したネパール人登山家、ニルマル・プルジャ氏のドキュメンタリー映画をダウンロードして、繰り返し見ていたりする。
嬉しいじゃないですか!
「ミヤサカさん、ぼくのお父さんと同い年だ」と、マサ(2年)がいう。
でも世代が違っても、山登りという共通の趣味でつながれることに、感謝。
国営ネパールテレコムのsimを入れたDJモトのスマホは、たまに下界とつながった。だから、みんな電波乞食をしていた。
「いまDJモトから電波を借りてる」。ナナコちゃん(1年)が千葉のお母さんにLINEすると、「モト君、電波塔持ってるの?」と返信が。
お母さん! さすが私と同世代。
そのナナコちゃんの目標は、「英語を勉強して国際山岳ガイドになること」。あい先輩(2年・女)の目撃談によると、ナナコちゃんは自分の部屋にテントを建てて、その中で寝ているそうだ。
Rolwaling valley, Nepal 2023 |