男子ロッカー室の壁に、こんな貼り紙を見つけた。
「心が疲れたとき、まず誰かに話しましょう!」
病院側が用意したメンタルヘルス対策で、希望すれば精神科医や臨床心理士と無料で話せるという。
心はぜんぜん疲れてないが、何しろタダだ。さっそく予約を入れた。
当日、相談室に入ると、見るからに優しそうな雰囲気の女性が座っていた。初対面なのに、この人になら何でも話せる、という気にさせる。「ザ・臨床心理士」みたいな人。
まるで催眠術にかかったように、看護助手として働いた半年間の出来事を、ペラペラしゃべってしまった。
・看護助手の募集に「年齢・経験・資格不問」とあったので気軽に応募した。実際は酸素吸入器の調整まで任せられるなど、想像以上に患者さんの生殺与奪を握る仕事だった
・各病棟によってしきたりが違い、ベテラン看護師の中には、自分のやり方への絶対服従を強いる人がいる。医師を頂点とする階層ピラミッドの最下層である看護助手は、ストレス発散のはけ口になりがち。かなりいびられた
・入浴介助当番の日は、朝から夕方まで連続20人の寝たきり患者さんを風呂に入れる。時間に追われて、まるで自分が「人体洗浄マシーン」になったよう
・「夜勤明けなのに、午後になっても帰れない」という、看護師の悲鳴に似た声を聞いた。現場は慢性的な人手不足
・忙しさに加えて、上司の看護師さんがきつい人で大変だった時、看護部長が親身に話を聞いてくれ、適切な配置転換をしてくれた。また、病院の他に自然学校でも働いていたので、元気な子どもと遊べたことも救いになった
・他に本業があるならともかく、看護助手の時給909円だけで食っていくのはムリ。仕事の大変さ、待遇の悪さは地元でも知れ渡っていて、知り合いに「まだ辞めないの」「早く辞めな。体を壊すよ」とせっつかれる
この日面談してくれた臨床心理士Tさんは、私の話を「外部の眼から見た病院の実情」として、病院幹部が出席する会議で報告するという。
Tさんは、フリーランスの臨床心理士。こうして医療従事者のケアをする他に、小中高校のスクールカウンセラーや、大学生との面談も行っている。
彼女によると、コロナ禍の長期休校やマスク、黙食は、子どもの人間関係に深刻な影響を与えていて、不登校が増えるのは「むしろこれから」だという。
心はぜんぜん疲れてないけど、またおしゃべりしに来よう!
何しろタダだし。
Omotesando Tokyo, October 2022 |