「今日のマツタケご飯は、きれいな焦げ色がつきましたよ」
4軒ほど隣に暮らす社長のお宅に、お呼ばれした。
社長は最近、料理に凝っている。ご馳走になったのは、マツタケがゴロゴロ入った炊き込みご飯とに、日高昆布の香り高い、澄まし汁。
たまに東京から奥さんがやってくると、
「あなたの料理はコストを度外視している」
そういって怒るのだそうだ。
コスト度外視、大歓迎です!
社長は独立系ITコンサルタントだ。官公庁や大企業がITシステムを導入する際に、第3者の立場から、受注した企業が作った見積もりを査定する。
ものすごい額のお金が動くようだ。
ある時社長は、受注先が出してきた見積もりを「割高である」と評価した。契約は流れ、その会社の役員全員のクビが飛んだ。
それからしばらくの間、ひとりで夜道を歩けなかったという。
社長には大学教授の経歴があり、著書もある。
「苦労して専門書を書いても、せいぜい100万円にしかなりませんよ」
その代わりに著書を出せば、あちこちから講演依頼が舞い込む。
その講演料が、1回100万円だそうだ。
知られざる世界。
時々、思い出したようにメールをくれる東京時代の友だちは、二児の母。
ある日、夜勤を終えた彼女が居間でへたり込んでいると、小学生の長女がキッチンに立ち、カップラーメンを作ってくれたという。
つま先立ちしながら湯を沸かし、自慢の腕時計を真剣にのぞき込んで、きっちり3分、計った。はい、ママ! 手渡そうとした、その瞬間。
カップラーメンは倒れ、中身をテーブルにぶちまけた。
母を労わる優しさは立派に育まれたが、最後の詰めが甘かった…
がっくりと肩を落とす長女。
母、とっさに、散乱した麺を素手でかき集める。
「わおー! セーフ!! ありがとー!!!」
陽気に言いながら、麺を容器に戻した。
汁はほとんどこぼれて、フローリングの床に池を作っている。新しく容器にお湯を足し、薄口しょうゆと顆粒出汁で味をつけた。
とってもおいしいよ!
満面の笑顔で、微妙な味のカップラーメンをすすったそうだ。
母の愛は、海より深い。
最近は、子どもが何をやってもかわいくて、早くもおばあちゃんの境地に達した、という。
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