マニラで英会話を習う企みはぽしゃったが、今回の渡航にはもうひとつ、大事なミッションがある。
話は遡って10数年前、東京で働く友人ヨーコさんが米ドル経済圏に出張した。大きな案件だったので、同じ会社のマニラ駐在員も動員されて来ていた。ところが彼のフィリピン・ペソを、現地の銀行が両替してくれない。
信用のない通貨の悲しさよ…
同じ会社のよしみで、ヨーコさんは自分の米ドルを、困り果てている彼のフィリピン・ペソと両替してあげた。そして仕事を済ませたヨーコさんは、ペソ札を持ったまま帰国した。
時は流れて、誰も気づかない間に、フィリピンが新紙幣を発行した。
そして今はもう、旧紙幣から新紙幣への交換ができないというのだ。
おおらかなヨーコさんは、完全にあきらめムード。でもその札束、今のレートで20万円分あるという。
に、にじゅうまん…
それが、ただの紙切れに?
勝手に義憤に駆られて、そのフィリピン・ペソを預かって、単身マニラに乗り込んだというわけ。
オンライン英会話のフィリピン人の先生に、厚さ1センチの旧1000ペソ紙幣の束を見せて相談すると、
「それなら Bangko
Sentral ng Pilipinas に行ってみれば? 何年か前に、私はそこで新札に替えてもらえたよ」
Bangko Sentral ng Pilipinas は、フィリピン中央銀行のこと。わが国でいうところの、政府日銀だ。ほのかな希望を持って、マニラ湾沿いのロハス大通りにある、フィリピン中銀に向かった。
なかなか立派な建物だ。でも…入り口がない。
通用口みたいなところから、IDカードをぶら下げた人が出入りしている。そこから入ろうとして、守衛に制止された。
状況でいえば、東京・日本橋の日銀本店に、ジーンズにバックパックの外国人旅行者が、入れてくれと頼んでいる構図。
私の行く手を遮る若い守衛さんに、かくかくしかじか、訳を話す。「はるばる日本から」などと話を盛った効果もあり、険しかった彼の瞳が、どんどん同情的になっていく。
「残念ながら新紙幣への交換は、3年前に終わってしまったんだ。でも、あなたみたいな要望がたくさん来ているから、また交換を受け付ける日が来るかも」
話の途中で、田舎の純朴さをにじませたおじさんが、バイクでやってきた。守衛さんと長い間、フィリピン語でやりとりをして、残念そうに去っていく。
「もしかして…今の人も?」
「そうです。大勢で要望を出し続ければ、もしかしたら、もしかするかも」
フィリピン中銀のHPに、メールアドレスが載っている。さっそく事情を書き送ると、かな~り経ってから、取りつく島もない返事が来た。
「Dear Mr.
Miyasaka, The BSP no longer accepts the old, demonetized banknotes as the
deadline for exchanging them was on 29 December 2017. Thank you.」
こういう場合、わが政府日銀はどうするだろう。調べてみると、これまでに発行された日本銀行券は、50年前のものでも100年前のものでも、無条件で交換に応じるということだ。
これこそ、中央銀行のあるべき姿じゃないですか、フィリピンさん!
ちなみにこの旧1000ペソ紙幣、額面の6掛けほどでメルカリに出品されている。外国通貨のコレクターに、1枚ぐらい買ってもらえるかも。
そしてそして! フィリピン中銀は来年、矢継ぎ早に次の1000ペソ紙幣を出す。現行紙幣に偽札が目立ってきたからだそうだ。
新・新1000ペソ紙幣は、偽造防止に有効とされるプラスチック製。
一方日本のお札には、原材料にフィリピン産のマニラ麻が使われている。
Makati, Metro Manila April 2022 |
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