マニラの朝。いつものように、ライドシェアのアプリで車を呼ぶ。
今日のドライバーは、5つ星(最高)評価のクリスピンさん。フィリピン中央銀行までの3.9キロを所要14分、料金164ペソ(400円)。運転者名や各種データはアプリに記録され、走行経路もGPSでスマホの地図に表示される。
銀行に着いて500ペソ札を差し出すと、お釣りないんだよね、とクリスピンさん。地元の乗客は、たいていキャッシュレス決済なのだ。ポケットの小銭をかき集めてみたが、10ペソ足りない。
「それでOK。それより胸ポケットのお金に気をつけて。スリに狙われるよ」。
東南アジアでタクシーに乗って、ぼられた事はたくさんあるが、料金をまけてもらったのは初めてだ。
フィリピンやタイ、インドネシアのタクシーは、メーターがあっても使わず、まず料金交渉で吹っ掛けてくる。たとえメーターを倒して走っても、油断すると遠回りされる。土地勘のない旅行者は、いいカモだ。
ベトナムでタクシーに乗った時、率先してメーターを倒したので感心していたら、そのメーターの数字が、目にもとまらぬ勢いで回り始めた。赤信号で止まった隙に車を降りて、力いっぱいドアを閉めた。
メーターに細工がしてあるタクシーは、タイにもいる。
だからスマホを数回タップするだけで車が来て、決められた料金、最短距離で目的地に行ってくれるライドシェアの登場は、私にとっては革命的。
旅行初日、マニラ到着が深夜になった。空港からホテルへ向かう途中は街路灯のない真っ暗な道だったが、運転者の名前や車のナンバー、走行経路がすべてスマホに表示されるので、安心して乗っていられた。
この前のイースター休暇中、静まり返ったマニラ市内でライドシェアの車が見つからず、流しのタクシーを拾ったことがあった。
昔取った杵柄?で、乗り込む前に助手席のドアを開け、行き先を告げる。案の定、ドライバーは首をタテに振る代わりに「いくら払う?」と来た。
ライドシェアで移動した時に、だいたい運賃相場は掴んでいる。相場の2割増しで、めでたく交渉成立。料金交渉制のいいところは、一度話がつけば遠回りされる心配もなく、たとえ渋滞しても金額が変わらないことだ。
運転者に現金の持ち合わせがなかったことを教訓に、配車アプリにクレジットカードを登録した。すると財布がいらなくなったと同時に、乗り込んでから降りるまで、ひと言も話す必要がなくなった。
行き先は運転者のスマホに表示されるし、運賃はアプリが自動的に決済してくれる。
ライドシェア運営会社も、コロナ感染防止のため、乗客に「Conversation
free ride」を勧めている。
悪徳タクシーと丁々発止のバトルを繰り広げた時代は、今いずこ。
ちょっぴり寂しかったりして…