2022年3月25日

芝公園から、モーリシャス

 

 北海道に住む大学の先生ご一家から、「投資を教えに来て欲しい。飛行機代とホテル代は出します」というオファーを頂いた。

 無免許ファイナンシャル・アドバイザー(FA)、ついに海を渡る! 

 しばし感慨に浸った。

でも待てよ。

iDeCoなどの非課税制度を使って、世界の株式に分散投資するインデックス投信を、給料天引きで毎月買い続ければ、10年後(または20年後、もしくは30年後)には、FIREやデジタルノマドになれる、かも知れません…」

 私が言えるのは、それだけ。

 いくらなんでも、これじゃ詐欺かもなー

 

 ネット証券に口座を開けば、いまや世界中の株がスマホで簡単に買える。でも私が海外投資を始めたのは、橋本龍太郎首相が金融ビッグバンを始めた頃。今みたいに便利なツールはなかった。

「ゴミ投資家のためのビッグバン入門」(海外投資を楽しむ会編著)をバイブルに、英語を勉強して、手探りで海外市場にアクセスしていった。

 その頃東京で出会ったFAが、若いオーストラリア人のクラーク。数年後にイギリス人のデービッドに担当を引き継がれたと思ったら、そのうち彼らはオフィスごと、香港に去っていった。

 シティバンクのリテール部門も同じ時期に、日本から撤退している。日本市場は儲からないと判断すれば、外資系金融は逃げ足が速い。

 彼らが所属するオフィスはその後、オーストラリア、次いでイギリスの会社と合併した。紆余曲折の末、今の私の担当FAは、モーリシャス在住の南アフリカ人、ショーンだ。

 モーリシャスってどこ?アフリカ東岸に浮かぶ島国で、セレブ御用達のビーチリゾートらしい。日本との距離は10,531キロ、ドバイ経由で17時間かかる。

 20年前は芝公園で会えた人たちが、いまや1万キロの彼方に。

 日本経済の凋落とも、何やら関係がありそう。

もうあまり質問事項もないのだが、ヒマな時にショーンとズームで話した。モーリシャスもコロナ禍で、ほぼ在宅勤務だという。なかなか豪華な家に住んでいるが、もしかしたらバーチャル背景?

 ロシアのウクライナ侵攻で揺れるマーケットを解説していたショーンが、突然カメラをオフにした。再び姿を現すと、両手で拝むポーズ。

「ゴメンナサイ! 朝から大嵐で、子どもの保育園が休みになっちゃって」

 4歳になる愛娘が、乱入してきたらしい。

 在宅リモート会議の、あるある。

Tateshina Japan, March 2022


2022年3月19日

日本は世界の辺境

 

 同僚に勤務を代わってもらって、北の果てまで行ってきた。

 まず、長野から特急あずさで東京へ。札幌行きのフライトは、雪で2時間遅れ。北海道に降り立ち、まだ冬景色の原野を5時間、列車に揺られて稚内へ。最後は路線バスに乗り換えて4日目の午後、宗谷岬にたどり着いた。

吹きっさらしのバス停に降り立った男5人と女1人は、皆ひとり旅。鉛色の空と寒風が、最果て感を盛り上げる。天気が良ければ、海の向こうにロシアが見えるという。

「まん延防止」のため、稚内の飲食店は軒並み休業中。やっと見つけた居酒屋で、惰性で手をアルコール消毒しようとしたら、すかさず店主が「アルコールは提供していません」。

 思わず消毒液のボトルから手を引っ込めたら、提供しないのは飲むアルコールの方だと判明。北の果ての町は、コロナに対しても守りが固い。

 

宗谷岬ぐらいで、辺境気分に浸ってはいられない。ミャンマーやソマリアに30年通うノンフィクション作家の高野秀行氏は、「いまや日本そのものが世界の辺境」と言う(以下、日経ビジネス電子版のインタビューより)。

・この10年、15年の日本の沈没ぶりはすさまじい。成田空港ほどみすぼらしい国際空港は、探してもなかなかない

・現在のアジアの空港は巨大で豪華だから、バンコクやシンガポール、ドバイから帰国して成田空港に着くと、まるで田舎の各駅停車が止まる駅か、バスの終点みたいな感じがする。「故郷の村」みたいな

・さらにびっくりするのは、「故郷の極東村」が、そのことに気づいていないこと。いまだにタイやインドは遅れていて、日本人はすごく近代的な暮らしをしている、と思い込んで疑わない

・韓国や中国は、日本とは比べものにならないぐらいデジタル化が進んでいる。店で1人だけ現金で代金を払っていると、後ろに列ができるからすごく恥ずかしい。田舎から出てきてすいません、みたいな

・講演で地方の高級ホテルに泊まると、テレビに有料アダルトチャンネルがあって、その案内が部屋に堂々と置かれている。世界標準ではあり得ない

・ラオスでは普通のホテルでも、環境のために毎日シーツは取り換えませんとか、歯ブラシは置きません、ということを案内している。これが世界標準

・日本が経済発展と引き換えに失った微笑みや自然、昔からの生活が、アジアには残っていると言われてきだが、そうしたものは急速に失われつつある

・それはむしろ日本に残っている。日本が大好きな韓国人や中国人は、日本に来ることで自分たちが失ったものを、冗談でなく本気で感じている

・これからの日本は「世界の古都」を目指すべき。ライバルは米中ではなく、スペインやポルトガル。日本の観光資源の豊かさは、スペインの比ではない

Cape Soya, Japan March 2022


2022年3月12日

黙食は罰ゲームか

 

 春まだ浅い北八ヶ岳の森に、東京の中学生がやってきた。

 バスを降りると、校長先生が生徒より軽快に、ずんずん雪道を進んでいく。学生時代は山岳部だったという。

まん延防止等重点措置のさなか、予約をキャンセルしなかったのは、この学校だけ。何としても子どもを自然に触れさせよう、という熱意を感じた。

 

 校長先生と一緒に、女子を引率してスノーシューで森を歩いた後、自然学校に戻って昼食。キッチンで茹でた担々麺を手に、食事の輪に加わった。

「これウマいんですよねー」

 隣のスタッフに話しかけようとしたら、

「シッ!」

口に手を当てて、目配せする。

見わたすと、生徒たち、引率の先生、添乗のバスガイドさん、皆が皆、ひと言も口を利かず、ただ黙々と弁当を口に運んでいる。

 いまだに、黙食してるのか…

 

 びっくりしたのは、その徹底ぶりだ。「まるでお通夜のよう」という言葉があるが、お通夜だってもう少しにぎやかだと思う。

水を打ったような静けさ。

異様だった。

 

 町の飲食店で見かける「黙食」を促す貼り紙は、あくまで会話を控えましょうという「努力目標」。気にしない客もいる。

 でも小中学生にとっての黙食は、教師という絶対的存在に促されるだけに、「強制」に近いのではないか。

 生徒たちの様子を見ていて、そう感じた。

 

「努力目標」と「強制」とでは、受けるストレスがまったく違う。

2年も続く学校現場での黙食が、本当にまだ必要なのか。

授業の合間の、貴重な友だちとの会話を奪ってまで…

もっと議論があっていい気がする。

 

 目の前の友に話しかけることもできず、黙々とすする担々麺の、なんと味気ないことよ。罰ゲームと呼ぶには生易しすぎる。拷問に近い。

「ランチタイムにおしゃべりできないなら、コロナにかかった方がマシ」

 本気でそう思った。ここがフランスやイタリアだったら、暴動が起きるだろう。私の体には、ラテンの血が流れている。

 全国のラテン系小中学生よ、決起せよ!




 

2022年3月4日

尼国 泰国 比国

 

 あー、外国に行きたい!

 というより、とりあえずニッポンを出たい。

 

パスポートが「引き出しの肥やし」と化して、はや3年。親が外国にいたり、結婚した人が旅行好きだったり、出張の多い仕事だったりで、3年もパスポートを使わないのは、かれこれ中学生の時以来だ。

世界的にオミクロン株が蔓延する中でも、やっと動きが出てきた。「1日5000人」という厳しい入国制限を敷く日本と対照的に、同じ島国のイギリスは、いまやワクチン接種証明があれば、誰でも入国できる。

 毎日数万人、数十万人が国内感染しているのに、水際対策をやっても仕方がないという考え方に、大賛成。でもイギリスには…用はないかな。

 そうしている間に、このウクライナ危機。民間機がロシア上空を通れなくなり、ロンドン直行便も運休してしまった。

いま行きたい国トップ3は、①登山やトレッキングで何度も通ったヒマラヤの国「ネパール」 ②3年間暮らした第2の故郷「タイ」 ③コロナ禍中に受講したオンライン英会話の先生を通じて、がぜん興味を持った「フィリピン」

各国大使館のHPを見ると、いま入国に必要なのは、

【ネパール】日本政府発行のワクチン接種証明+日本出発72時間以内に受けたRT-PCR検査の陰性証明+ホテルの予約確認書

【タイ】到着1日目のホテル予約確認書+2万米ドル以上の病気治療費用をカバーする海外旅行保険証書+到着1日目のRT-PCR検査、5日目の抗原検査

【フィリピン】日本政府発行のワクチン接種証明+日本出発48時間以内に受けたRT-PCR検査の陰性証明+3万5千米ドル以上の病気治療費用をカバーする海外旅行保険証書+30日以内にフィリピンを発つ帰りの航空券

 3か国とも、すでに入国時の隔離生活は必要ない。外国人観光客が落とすお金は、国の大事な収入源だ。なりふり構っていられないのだろう。

ちなみに、日本出国前に必要となるPCR検査は、英文の陰性証明書込みで3万円もかかるらしい。暴利だ。ネット上には、某クリニックが提供する1600円の検査でも飛行機に乗れた、という書き込みがある。果たして真相は…?

 帰国時には、もれなく指定宿泊所または自宅での、3日間の待機が必要だ。

 3日ぐらいなら、コロナ時代の思い出作りに、経験してもいいかも。

 

 続いてフライトをチェック。タイとフィリピンは、ほぼ毎日直行便がある。それだけ人の往来が復活しているのだろう。ネパールはまだ不便で、シンガポールとニューデリー経由で30時間かかる。

 

 パスポートだけで、世界中どこでも行けた日々が、ひたすら恋しい。

 今の仕事の契約が終わったら、すぐ国際線に飛び乗ろう。

 もし入国拒否に遭ったら、それも話のタネ、ブログのネタだ。



肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...