2022年1月29日

シングルライフには覚悟が必要?

 

 蓼科の家は、マイナス10度を下回る日が続いている。

 数日家を空けて夕方帰宅すると、いつもキッチンや洗面所の水が出ない、トイレは流れないという事態に。また水道管が凍ったか…泣きたくなる。

 生存のため?留守中も含め24時間、床暖房は入れっぱなし、蛇口の水も出しっぱなしにした。給料の大半が、電気代・水道代・灯油代へと消えていく。

 戦力の逐次投入こそ、先の大戦での日本の敗因だ。局面を打開するため、ここで一大決戦を企図! 凍結防止ヒーターの巻き替え工事を依頼した。

工事中は水が使えないので旅に出たら、追いかけるように電話がかかって来た。「水道管そのものが老朽化している。交換が必要です」。工事費用は一気に2倍以上、工期も延びて、近くのホテルから出勤する羽目に。がーん。

 やっと帰宅が許され、水回りの試運転に立ち会う。施工担当者は、洗面所の赤い歯ブラシや女性用トリートメントを見て「?」という顔をしていた。

 

 配偶者と死別して1年余、独身という立場にまだ慣れない。人口動態に詳しいニッセイ基礎研究所の天野馨南子さんは「結婚は個人の自由だが、シングルを選択する場合には、少子化によって起きる事態への覚悟が必要」という。

 独身者には、覚悟が必要?

日経ビジネス電子版に載ったインタビュー記事によると、

・日本の全世帯に占める単身(シングル)世帯の割合は38%。配偶者との死別や離別で単身となる人が増えた上に、あえて「おひとり様」人生を選ぶ若い人も増えている→高齢化と未婚化で、シングル世帯が急増

・『50歳未婚率』(50歳までに一度も結婚しない人の割合)も男性25.8%、女性16.4%で、過去最高を記録

18歳以上34歳未満の独身者で『いずれは結婚しよう』と考える人の割合は、男性85.7%、女性89.3%。結婚を希望する傾向は変わっていないが、それがかなわない社会になったということ

20代から40代の未婚者の67割が親族と同居している→50代前後で両親と死別→女性は男性より長生きする可能性が高く、高齢女性の貧困問題が顕在化してきている

・金融庁の試算で話題になった『老後2000万円問題』は、夫婦のモデル。一人暮らしはスケールメリットが働かないので、老後の備えはそれ以上に必要

・日本は世界でトップレベルの治安と公共インフラを持つ平和な国だからこそ、一人でも暮らせる。しかし治安・インフラの根源は税金であり、その税金を支払うのは人口(納税者)

・日本は先進国でも最速の少子化によって、将来の納税者が激減している。その社会で長生きすることのリスクを認識してほしい

・フランスの「家族税制」では、子供の数が多いほど税負担が緩和される→結婚も子どもを持つことも自由なこの時代に、あえて次世代を育む選択を決意・実行した人々への応援メッセージになっている

 

「ひとり暮らしはスケールメリットが働かない」。今回、それは身に染みた。



2022年1月22日

9DKと段ボール

 

 職場の上司をブログに書くなんて、危険どころか、ほぼ自殺行為だ。

 でも私の上司は、とっても面白い人。

うう、誰かに話したい。もう我慢の限界だ。

 えーい! 書いちゃえ。

 

 初出勤の日、上司のまりさんは大きな段ボール箱を両手で抱えて、ドアを背中で押しながら入ってきた。

 年度始めは荷物が多いのかな…?

 でもその翌日も、そのまた翌日も、まりさんは段ボール箱を両手で抱えて、後ろ向きに出社してくる。中身は普通に、A4ノートパソコンや書類だ。

 ここは東京丸の内じゃないから、コーチの本革トートは必要ないとは言え。

「キユーピーマヨネーズ450グラム20本入り」と大書された段ボール以外に、何か入れ物ないのかな。

昼休み、まりさんのランチは、レトルトカレーとパックライスだった。

たまたま今朝は寝坊したのかと思ったら、翌日もその翌日もレトルトカレー。「新宿中村屋のチキンカレー」と「サトウのごはん」が定番だ。

9か月たった今では、冷え切った自分の弁当より、まりさんが頬張る熱々のカレーが、よっぽどおいしそうに見える。

 

桜陰学園高→聖心女子大という、バリバリ女子校出身者のまりさん。

曰く、

「桜陰の休み時間は、学校が終わってから寝るまで、どういう時間割で何を勉強するかが話題だったよ。クラスメートは弁護士志望のガリ勉ばっかり」

「その後で聖心に入ったら、入学式で学長がいきなり『皆さんにはそのうち、白馬に乗った王子様が現れますから』だって。真逆だったわー」

大学で彼女が入部したワンダーフォーゲル部は、コーチが「グループ・ド・ボエーム」という山岳会から派遣されていた。当時、国内外の岩場で初登攀争いを繰り広げた先鋭的クライマー集団だが、アルコール中毒者たちでもある。

「免疫のない乙女が、いきなりそんな男たちに出会って、酒の臭いが男の臭いだって、ず~っと思い込んでたよ。初代コーチのSさんは、42歳でアル中で死んじゃった」

 数年前にお母さんを亡くし、東京の実家を売却した。まりさんは7人きょうだいなので、遺産も7分の1。クルマを3台、軽のジープと軽のハッチバックと軽トラックを買って、きれいに使ってしまったらしい。

「老後の資金が心配だわー」

 まりさんは9DKの大きな家で、一人暮らししている。

Dは土間でKは蔵だけどね、ウチの場合」




2022年1月15日

2022 冬の沖縄

 

正月明けに、美術館の特別展を見るため沖縄に飛んだ。

現地はオミクロン株が急増中だが、いま行かないと会期が終わってしまう。

予約時点で満席に近かったANA那覇行き便は、沖縄がニュースになった途端にキャンセル続出。乗ってみたら空席だらけだった。那覇で泊まった350室のホテルも、ロビーは閑散として、レストランは臨時休業していた。

報道で危険と騒がれる場所ほど安全なのは、知る人ぞ知る事実。「人の行く裏に道あり花の山」は投資の格言だが、旅にも当てはまる。ソーシャルディスタンスばっちり。

翌朝、那覇から90番の市バスで宜野湾を目指した。国際通りは人影まばらで、テレビの取材クルーばかりが目立つ。地元の人が長蛇の列を作っていると思ったら、その先にはPCR検査会場があった。

シュガーローフ(現在のおもろまち)、嘉数高地など、バスは北上しながら沖縄戦の激戦地を通過していく。現在は大規模ショッピングモールや交通量の多いバイパスなど、のっぺりした郊外の風景に変わっている。

40分ほど揺られて、旅の目的地・佐喜眞美術館に着いた。「丸木位里・俊 沖縄戦の図 全14部展」の最終週に、ギリギリ間に合った。

画家の丸木夫妻はヤマト(日本本土)出身だが、沖縄戦の体験者に現地で話を聞き、6年かけて「沖縄戦の図」を描いた。2人はその時、81歳と70歳。

並ぶ絵は壁いっぱいの大きさで、「鉄の暴風」といわれた米軍の猛烈な砲爆撃に遭い、ガマ(洞窟)に逃れたお年寄り、女性、子どもたちの姿が描かれている。

水墨画の位里と油絵の俊。抽象と写実が混じりあう。遠目に見ると、黒々とした絵は捉えどころがない。だが細部に目を凝らすと、ガマの暗闇で起きた恐ろしい出来事が、ろうそくの火に照らされるように、浮かび上がる。

お互いの首を縄で絞めて、一緒に死のうとする女性ふたり。子どもに鎌を振り上げる、黒い人物。鮮血を流して、折り重なる人たち…

アメリカ軍の捕虜になるのを恐れて、あるいは日本兵の指示で、多くのガマで「集団自決」が行われ、家族同士がお互いに殺し合ったという。

別の絵では、首に縄をかけて引きずられる痩せた男性が描かれる。スパイと疑われた朝鮮人が、日本人の妻、5人の子と共に処刑された「久米島の虐殺」の場面だ。

住民を巻き込んで20万人余の犠牲者を出した沖縄戦は、勝者アメリカが撮った映像でしか見られない。絵から伝わってくるのは、生き延びた市民の心に刻まれた映像を、精緻に描いて残そうとした、ふたりの老画家の執念。

「次はルオー展をやりたいけど、これ以上コロナが増えたら、また休館しなきゃいけない…」帰り際に、館長夫人がため息をついた。

 2時間かけて見ている間、他に見学者はいなかった。


※追記「沖縄戦の図 全14部展」はその後、2月20日まで会期が延長されました



2022年1月7日

ほったらかし投資家

 

「野菜じゃない方のカブ」が主な収入源になってから、そろそろ7年。

 久しぶりに証券口座をのぞいたら、1年前より残高が25%増えていた。

MSCI世界株指数が年間20%(ドルベースで)値上がりした上に、ドル円も12%円安にふれた。ミヤサカ・ファンドは8割強が外国株。両方から恩恵を受けられた。

 世界のマーケットを国別に見ていくと、

アメリカ+26%。やっぱり去年も強かった。

ユーロ圏+13%。

中国-20%。

日本0%()。相変わらず、です。

 特に好調だったのは、オーストリア+36%。チェコ+44%。レバノン+66%。ボツワナ+78%。ジンバブエ+365%…(全てドルベース)

 未来を予見する能力があったら、ジンバブエに集中投資したのになぁ…

 

 一昨年から続く新型コロナウイルスとの闘いで、大きな役割を果たしているワクチン接種。当初、何年もかかると思われたワクチン開発を1年足らずで成し遂げ、多くの人命を救ってきたのが、米モデルナ社だ。

実はこの会社、10年前は社員たった一人のスタートアップだった。

そして当時の零細モデルナに、社員6000人の大企業CEOの座を捨てて転職したのが、38歳だったファン・バンセル氏だ。

「多くの患者を救う人生一度のチャンス」と決心したバンセル氏を、愛妻も「リスクを恐れないで」と励ましたという(1227日付読売新聞)。

 

 この2年で、モデルナ株は10倍になった。

 ミヤサカ・ファンドは、そのモデルナ社に投資している。

ウソ。そんな先見の明、あるわけない。

でも調べてみたら、ナスダックETFなどを通じて、実はモデルナ株を6万円ほど持っている(らしい)。

 パッシブ運用の偶然の産物とはいえ、こういう会社を自分のお金で応援できるのも、株式投資の魅力だと思う。

 オミクロン株の蔓延で、各国政府は再び、自国民向けワクチンの確保に奔走している。虚偽申告で4度もワクチンを受けた人が、接種費用の自己負担を求められたという記事を読んだが、あの注射は1発3000円するらしい。

 ベンチャー企業が育たない日本は、いつまでたっても国産ワクチンを作れない。今年もモデルナ社の売り上げに、税金を使って貢献するのだろう。




2022年1月1日

寒冷地ビギナーの年越し

 

 八ヶ岳中腹のわが家は、朝の気温が時々、マイナス10度を下回る。

全国の気温と比べると、たいてい旭川より暖かいが、札幌よりは寒い。

 

夜通し雪が降った、その翌日。

キャタピラのきしむ音とともに、除雪車がやってきた。

 両側に雪の壁を作りながら、道に積もった雪を、まっ平らにしていく。

救世主よ! やっとこれで、街に出られる。

雪に埋まった愛車を掘り起こし、そろそろと山道を下る。しばらく走って、やっと乾いた国道に出た。安心してアクセルを踏み、スピードを上げる。

しばらくすると、床下から、コツコツという音が聞こえてきた。

 やがてガタガタゴトゴト、ものすごい音量に…

「こ、この音、何でしょう?」

 慌てて駆け込んだディーラー。白いつなぎの整備士さんは、顔色ひとつ変えない。「寒いところを走って来ましたよね」と言いながら、車をリフトに乗せ、頭上高く持ち上げた。

 車底と排気管のすき間に、子どもの頭ぐらいある、大きな氷が挟まっていた。

 

 その3日後。

年越し用の食料と、灯油54リットルをクルマに乗せて、帰宅した。

 冷え切った室内に入り、水道の蛇口をひねる。

…出ない。

キッチンも洗面所も、風呂場もダメ。トイレも流れない。

マイナス15度まで冷え込んだ去年の正月も、水が出なくなった。自宅裏にある水道管が、凍結したのが原因だった。

細工は流流。この時のために、ちゃんと水を溜めてある。それをキッチンで沸かして、水道管にぶっかけた。

ジャ~、ジャ~

1回、2回、3回…

ダメだ、溶けない。水を使い果たした。日が暮れた。

万策尽きて、管理会社に電話する。駆けつけてくれたスタッフが、いかにもプロっぽい電気式温風機を、水道管に当てる。待つことしばし。

洗面所の蛇口から、勢いよく水が出始めた。

原因は凍結防止ヒーターの不具合で、修理は年明けになるという。

「蛇口の水を出しっぱなしにしておいて下さい。また凍りますよ」

 

明けましておめでとうございます。

プロの方々に助けられながら、なんとか暮らしてます。



肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...