コロナが収まった今頃になって、職場で初めてリモート会議をした。
スタッフ中最年少の私が、有無を言わさずホスト役を命じられる。タダで飲み会に使っていたズームに、初めて利用料を払った。
会議当日。半分以上のスタッフが、「ズームの使い方がよくわからない」と言って、ゾロゾロ職場に集まってきた。
お互いの顔がすぐそこにある、不思議なリモート会議。
開始時刻になり、議題に入ろうとすると、不測の事態が。
ひと部屋で大勢がアクセスしたせいか、発言者の声がハウリングして、ワンワン反響する。何を言っているのか、さっぱり聞き取れない。耳が痛くなる。
たまらずスドーさんが、パソコンとイスを抱えて戸外に飛び出した。距離を取ったら、反響が収まった。やっとズーム会議らしくなってきた。
ダウンを着て震える画面上のスドーさん。その後ろに、黄金色に輝く秋の森が映りこんでいる。きれいすぎて、かえってバーチャル背景にしか見えない。
ふと横を見ると、自分のスマホでアクセスできなかったヒデコさんが、隣のマリさんのパソコンに自分も映るよう、マリさんにピッタリくっついている。
リモート会議どころか、濃厚接触会議!
その翌週、両親をクルマに乗せて、ドライブに出た。
元気に旅行もできるが、ふたり揃って80代。ピアス代わりの高性能補聴器が、耳に光る。
出発してしばらくすると、助手席の父がキョロキョロし始めた。
「どこかから人の声が聞こえてくる」
そのうち後部座席の母も、
「女の声がする!」
カーラジオもオーディオも、スイッチを切ったはずだが…
「今度は後ろから聞こえたぞ」
「また右のほうから!」
これが深夜のドライブだったら、かなり怖い状況…
交差点を左に曲がった時に、謎の女の正体がわかった。
カーナビの案内音声だった。
ICTが進歩しても、使い方に慣れないと、まじめなコミュニケーションが漫才になる。
「やり方忘れないうちに、また集まってズーム会議しよう!」
職場の人たちは、張り切っている。