2021年8月27日

打つ気まんまん

 遅ればせながら、「コロナ」のワクチン接種を受けたくなった。

 ふだん蓼科の森で暮らし、同じ森にある職場にマイカーで通勤していると、ついコロナの存在を忘れてしまう。

わざわざ注射器で体内に異物を入れる行為も、気が進まない。

 そうこうしているうちに、作家・橘玲の文章が目に留まった。

・免疫を持つ人が増えればウイルスは広がらないから、ワクチンを打つことは自分が病気にならないだけでなく、社会全体を感染症から守ることになる

・人口の7割がワクチン接種することで集団免疫が獲得され、感染は収束する

・ワクチンを接種せず(副反応のリスクを負わずに)、集団免疫という利益だけを享受しようとする人は、フリーライダー(ただ乗り)だ

                (「週刊プレイボーイ」75日号より) 

「お前はフリーライダーだ」とは言われたくない。何よりワクチン・パスポートがなければ、外国にも行けない。個人的には、こっちの方がキツイ。

 にわかに、打つ気満々になった。調べてみると、地元の茅野市で受けられるのはファイザー製ワクチン。でも、現在大流行している変異種(デルタ株)に対する感染予防効果は、42%でしかない。一方のモデルナ製ワクチンは、76%(読売新聞8月18日朝刊より)。

 どうせ打つなら、断然モデルナでしょう。

で、モデルナが打てるのは、①自衛隊がやっている大規模接種会場 ②前の会社の職域接種。どちらも、東京のど真ん中に行かなければならない。一方、ファイザーが打てる最寄りのクリニックは、いつも行くスーパーの隣にある。

 あっさり日和ってファイザーにした。

さっそく予約の電話を入れてみたら、なんと10月まで空きがないという。

 完全に出遅れた。

 茅野市の皆さんも、打つ気まんまんだ。

 

数か月前、「私はワクチン接種を受けない」と断言する人に出会った。

2人揃って「遺伝子を勝手に書き換えられてしまうから」と言う。

 いったい誰が何の目的で、人の遺伝子を操作しようとするの? 

地球人に敵意を抱く宇宙人?

 私にはSNS経由のデマにしか思えなかったが、哲学者の岸見一郎は「デマに流される人が一概に悪いわけではない」という。

「なぜデマに流されるかといえば、ワクチンを打ちたくないからです。打たないという決心を固めるためには理由が必要です」(日経メディカル onlineより)

 岸見氏自身もワクチン接種に不安があり、主治医に尋ねると「あなたの場合、ワクチン接種のデメリットよりも、メリットの方が大きいので打たない理由はない」と即答され、決心がついたそうだ。

 専門家による情報提供や助言は、とても大切だとつくづく思う。 

Tateyama Japan, summer 2021


2021年8月20日

外国に行きたい

  世界中の国が「鎖国」を始めて、1年半が経った。

 今年に入って、友人を訪ねたついでに成田空港に行ってみた。免税店やレストランが軒並みシャッターを閉ざして、まるで過疎地の商店街のよう。照明が落とされ、行きかう人もない巨大な空間は、不気味でさえあった。

コロナが明けたら、まずセブ島かボホール島へ、英会話を習いに行きたい。

行ってみたい外国の土地、再訪したい街のリストも、もう満杯だ。

ゴーキョ、ポカラ、アッサム、シッキム、ダージリン、バラナシ、チェンマイ(バーンロムサイ)、ベルリン(ザクセンハウゼン)、バリ島(タンジュンサリ)、ブリュッセル(王立美術館)、トゥンブクトゥ…

パスポートとワクチン・パスポートを手に、来年は国際線のフライトに乗れる日が来る、と信じている。

 

イギリスの経済紙 The Economist に、「今こそ国境を開くとき」という記事が載った。論調が内向きにならないところが、さすが英メディア。

ごもっとも!と思った部分を、以下にメモしておきます。

・新型コロナウイルスの感染拡大で、いまや外国旅行は幸運な少数の人だけに許される特権になった。海外旅行者の数は85%減少したまま

・ワクチン接種した人や、高額な検査が受けられる人にしか入国させない国も

・国境が封鎖されると、海外で働いたり留学したりしている人は、愛する家族や恋人に会いに帰ることができない。親の臨終に際して、メッセージアプリWhatsAppで別れを告げることしかできなかった人も

・今日導入されている渡航制限は、海外から流入する新型コロナウイルスから国内の人々を守るためという名目。でも実際にウイルスの侵入を食い止めている国はごくわずかで、そのほとんどは島国か独裁国家

・大多数の国の国境は陸地にあり、そうした国々に鎖国政策は適さない

・あるウイルスの感染がひとたび地域で拡大を始めれば、感染者数は2週間ごとに倍増する。入国制限がもたらす効果など、感染者数全体から見れば微々たるもの

・世界をめぐる旅行を規制するにあたって、もっとも望ましいのは、国境の開放を標準とすること。完全に防ぐことなど、到底不可能な話なのだから

・デルタ型の感染が現在ほぼすべての地域で拡大しているように、ひとたび変異株がその地に根付いてしまえば、入国制限は無用の長物となる。ならば廃止するのがよい

・移動の権利は、あらゆる自由の中で最も重要なものの一つ。その権利を奪うのは、制限を講じることで明らかに命を救える場合に限られる

・安全が確保され次第、移動の自由は回復されなければならない。そしてほとんどの国において、今がまさにその時だ

Yatsumine Japan, Summer 2021


2021年8月14日

森の官民格差

   朝、起きるとまず外に出て、玄関の温度計をチェック。

 標高1600メートルのわが家、午前6時の気温が20度を超えたのは、今年に入ってまだ2日だけ。

 そして勤務先の自然学校は、さらに200メートル高い。昨日出勤したら、気温12度だった。

 例年ならサマーキャンプの子どもたちで賑わうこの時期、自然学校は閑散としている。コロナ禍のあおりで、家族連れがぽつりぽつりと、遠慮がちに訪れるのみ。

先日、みたび緊急事態宣言が発令されると、9月のカレンダーを埋めていた中学校10数校、2000人余によるオリエンテーリングの予約が、ファクス1枚で全てキャンセルされた。

 

 施設を市が所有し、運営をNPOに委託している自然学校。私は市の臨時職員枠で採用されたので、利用者が減っても給料は変わらない。

25年間ずっと民間企業で働いたので、業績と報酬が連動しないのは、かなり妙な気分。まるで、共産主義国の市民になったよう。

でも一緒に働くNPOのスタッフは、そうはいかない。収益の柱だったサマーキャンプが2年連続で中止となり、頼みの綱の学校オリエンテーリングもキャンセル。資金が枯渇し、NPO存続のために、自ら給料を返上している。

 標高1800メートルの、官民格差。

 かなり心苦しい。

 

(果たしてこの状況で、そちらに行っていいものでしょうか…)

自然学校にかかってくる問い合わせ電話から、都会の人たちのそんな逡巡が伝わってくる。

私たちが広い森で提供するオリエンテーリング、ウォークラリー、親子キャンプ等のプログラムに、コロナ感染拡大の要素があるとは思えない。

(ここは別世界です。どうぞマスクを外して、この新鮮な空気を思う存分、吸いに来てください)

 と、小声で伝えたくなる。

 

 新型ウイルス感染拡大を5年前に予言した、ビル・ゲイツ。過去に起きた疫病大流行を研究する、歴史学者の磯田道史。

 変異種が新たな流行の波を引き起こし、一方で有効なワクチンが行き渡りつつある現状を、2人はコロナ禍の最終段階と位置付けている。

 終息まで、あとひと息か…

Tsurugidake Japan, summer 2021


2021年8月6日

14連続ふりかけご飯

 学生の夏山合宿に合流するため、やって来たのは北アルプス・剱岳。

 テント場に着くと、コロナ禍で増えたソロキャンプの小さなテントの真ん中に、冬山4人用テント4つを発見。

 そして、側頭部をツーブロックよりさらに短い「スキンフェード」に刈り上げた若い衆が、たむろしている。

 まさかと思ったその強面集団が、軟弱で知られるわが母校、R大学山岳部パーティーだった。

 

 大学山岳部といえば、キケン・キツイ・キタナイ・ダサイの4拍子。人が集まらず、どこの大学も、常に存続の危機に立たされてきた。

 ところがこの春、我が部は部員がまさかの2ケタに。コロナ禍で授業がリモートに移行したため、「リアルな体験」を求める新入生が、進んで山岳部の門を叩くのだという。

 神風だ。

 

 いま彼らが大学に通うのは、週3回の部活の時だけ。せっかく入学したのに、汚い山岳部の部室しか知らないのは、ちょっと気の毒。

でも毎日在宅の他の学生に比べれば、まだ幸せなのかも。

 

 我々OBが合流したその日、夕食のメニューは「ぜんざい」だった。

ぜんざいって…普通はおやつでは?

「ええーっ? ぜんざいー?」

 子どもみたいに言ってみたら、レトルトの牛丼を出してくれた。

 

 この夏山合宿、彼らは2週間分の食料を背負って入山した。まず剱岳周辺で雪上訓練と岩登りをこなし、槍穂高連峰を経て上高地まで縦走する計画だ。

 何げなく食料表を眺めていたら、昼食は「ふりかけご飯」とある。

 2週間ず~っと、昼の弁当は「ふりかけご飯」。

 ほんの冗談かも? という期待むなしく、翌日ホントに「ふりかけご飯」が出てきた。

「ええーっ? ふりかけごはんー?」

 と、子どもみたいに言ってみた。

 今度は…何も出て来なかった。

 

 彼らは毎朝、まだ暗いうちからテントを出て、10時間以上歩く。山登りに打ち込む1921歳は、食事なんかどうでもいいみたい。

 ン十年前の卒業生(私)は、しっぽを巻いて3日で退散した。 



肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...