2021年7月9日

棄国子女

「棄国子女 転がる石という生き方」 片岡恭子著 春秋社

 著者は、コロナ禍前まで「ハンドキャリー」という仕事をしていた女性。国際宅配便でも間に合わない大急ぎの荷物を、飛行機に飛び乗って世界の空港へ手渡しに行く「運び屋」だ。

 お金をもらって海外に行けて、しかもマイレージが貯まる。やってみたい。

だがこの本は、運び屋になるまでの物語。著者は中学時代、父を過労死で失って母子家庭となり、その母から言葉の暴力を受け続けた。心を病んだ著者は、「自分自身の再生を賭けた荒療治」として、南米大陸放浪の旅に出る。

自分も10代、20代に東南アジアと南アジアを放浪したので、著者が貧困地域の旅で得た感慨に、とても共感できた。以下に、印象的なことばを書き留めておきます。

 

「人以外に絶望する動物はいない。娼婦やゲリラが決して絶望などしていないのは、人というよりもむしろ動物に近い生活を送っているということなのかも知れない」

「衣食住が足りてできた暇に教育を受けた頭で、もう充分に幸福なはずなのにわざわざ絶望する。本当は絶望なんかどこにもない。それは思考する余裕が作り出した幻影にすぎないのだ」

「旅に出るようになって初めて、引きこもるのも家族が不仲なのも、生活にそれだけのゆとりがあるからだと気づいた。経済的な余裕がないなら、家族全員が働かなければ生きていけない。お互いに協力せざるを得ないのだ」

「警察や軍隊というものは、自国民を守るためにあるのではなく、体制に逆らう者を制圧するためにある」

「世界は会社だけじゃない。世界は学校だけじゃない。世界は日本だけじゃない」

「幸せになるためのルールなんてない。社会や教育によって刷り込まれた人並みの幸せを得るためのルールが、どれだけの人を不幸にしていることか」

「おそらく誰しもが労働によってではなく、好きなことや得意なことで誰かを喜ばせることができるし、そうすべきなのだと思う。あるいは、ただそこに自分らしく在るだけで、すでに喜んでくれる人がいるかも知れないのだ」

「書くことで自分を解放し、それを読むことで誰かが解放されるなら、それ以上はなにも望まない」

「日本は今、殺伐としている。特に海外から帰ってくるとよくわかる。こんなに殺気立った緊張感が張りつめている国を私は他に知らない」

「私は今日も、ここではないどこかを想って日本を生きる。ここではないどこかでも生きていける、いつでもここではないどこかへ逃げられると、過呼吸を起こしそうな自分に言い聞かせながら」

Kirigamine Japan, Summer 2021




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