2021年7月31日

安いニッポン

今や昔の話だが、コロナ禍前まで、大勢の外国人旅行者が日本に来ていた。

彼らは美しい日本の四季、おもてなしの心に溢れた日本人に魅せられた? 私の観察では、海外からの旅行者の一番の目的は、ドンキやヨドバシ、マツキヨ、セブンイレブンだったように思える。

そして私たち日本人にとっても、モノが安いのは、決していいことばかりではない、らしい。

 

「安いニッポン~価格が示す停滞」 中藤玲 日経プレミア

・「300円の牛丼」や「1000円カット」は、他の先進国ではとても成り立たない。なぜこんなに安いのか?

・長引くデフレで、企業が価格転嫁するメカニズムが破壊された→値上げができない→企業がもうからない→従業員の賃金が上がらない→消費が増えない。だから物価が上がらない

・日本は雇用規制が厳しく、従業員を解雇できない→企業は、従業員の給料を確保するため、製品の価格を下げてでも売上高を確保しようとする

・でも値下げしないと売れないということは、裏を返せばその会社の製品は値下げ前の値段では社会に必要とされていないということ→必要とされていない企業に人を縛り付けておく方が罪では?

・日本は「20年間旋盤を回してきた人に老人ホームで介護の仕事はできない」という考え方。アメリカは「労働者も学習しなおし、それぞれが必要とされる場所で仕事をする方が幸せ」という考え方

→世の中で必要とされる仕事の種類の変化に合わせて、労働者も自己変革しなければならない

・多くの人は「価格が安ければ幸せだ」というが、それは違う

 企業からすると、せっかくおいしいチョコレートを作るアイデアが浮かんでも、「価格据え置きなら元が取れない」と商品化をあきらめてしまう→価格を据え置く代わりに量を減らす「ステルス値上げ」のように、どうやって小容量化するかの研究を最重要視するようになる

・安いニッポンは質の良いモノを安く供給しているということで、それは価値に適正な値付けができていないという意味→我々には「質の高いモノやサービスにきちんと対価を払うことは当然」という考え方が必要

・日本企業の給料は安い→NTTの研究開発人材は、35歳までに3割がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などに引き抜かれる→人材の流出、国際競争力の低下

・物価が上がらないと、中央銀行が金融引き締めに動きにくい→株や証券にお金が集中→労働による所得が増えにくく、投資による所得が増えやすくなる

・企業の利益が出ないので賃金を上げられない→GDPが増えなければ税収も上がらない→将来、社会保障サービスの財源を確保できなくなる 



2021年7月23日

まあるいタイヤが四角になると…

 

 朝、駐車場のクルマを出そうとしてビックリ。

左後輪が、ペチャンコにつぶれて四角になっている。

 

 運転歴30年以上になるが、パンクの経験は、ほぼない。そしてこういう日に限って、午前中オリエンテーリングの中学生200人、午後に学校登山の小学生100人をガイドすることになっていた。

 電話でロードサービスを頼むと、山奥のこの家まで1時間はかかりそう…

 あぁ絶体絶命。必死になって、愛車のトリセツをめくる。日本車は故障しないとハナから信じているので、トリセツを読むのも初めて。

 ん? スペアタイヤが…ない。

 最近のクルマは、スペアタイヤを積んでないの? その代わりに、パンクの穴をふさぐ応急修理キットとやらを見つけた。でも気が急いているので、作業手順の細かい文字を追う気になれない。

 ふと閃いて、車載のジャッキでエイヤっと車体を持ち上げた。家から冬タイヤを転がしてきて、パンクしたタイヤと付け替えた。所要約30分。なんとか仕事に間に合った!

 夕方ガソリンスタンドで見てもらうと、タイヤにクギが刺さっていた。

前日に300キロ走ったが、ハンドルを取られたり、振動を感じたりすることはなかった。家に着く直前にクギを踏み、ひと晩の間に、少しずつ空気が抜けたらしい。

移住者仲間に聞くと、

「山の中に住んでいると、都会よりはパンクに遭いやすいみたいだよ」

 とのこと。そして、

「すごいね~! うちのダンナ、そんなことできませんよ」

 と褒められたり、

「外したタイヤ、坂道を転がっていかなくてよかったね~」

 と冷やかされたり。

 言われてみれば、わが家の駐車スペースは、崖の上。

 うっかり手を離したら、真っ逆さまに谷底まで行っちゃいそう…

 でもそれ以前に、走行中に自分で付けたタイヤが外れやしないかと、気が気でなかった。

 電気自動車や水素自動車、自動運転車より、「絶対にパンクしないタイヤ」または「いざという時は空を飛べるクルマ」の実用化を急いで欲しい。


  いろいろありますが、職場のキセキレイ幼鳥は元気に育ってます。




2021年7月16日

キセキレイは粗忽者

 

 朝、自然学校に出勤すると、バルコニーに鳥の巣が。

 それも、お客さん用ドリンクが入った冷蔵庫のすぐ隣に…

 中を覗けば、小さな卵が5つ収まっている。

この大胆不敵、かつ傍若無人な輩は、いったい誰だろう。

鳥の種類で私がわかるのは、ハト、カラス、ニワトリ(=焼き鳥)ぐらい。「よくそれで自然学校職員が務まるね」と言われそうだが、それは採用する側の責任。

先輩スタッフに聞くと、キセキレイという鳥の巣だそうだ。

 

さっきから、しっぽが長くて黄色い小さな鳥が、地面を走り回りながら、こちらを伺っている。

母キセキレイだ。

我々スタッフが室内に引っ込むと、すかさず巣に戻って、一生懸命タマゴを温め始めた。スマホで調べたら、キセキレイはとても警戒心が強いとある。

ではなぜ、バルコニーのテーブルの上に巣を…?


人の往来があった方がかえって安全、とツバメ並みの知性を働かせた? でもここは、普段はほとんど人けがなく、逆にオリエンテーリングがある日だけ、200人もの小中学生が集まって、ものすごい騒ぎになる。

この母キセキレイは、大胆不敵というより、かなりのおっちょこちょいだ。

それでも彼女は、我々人間の隙を縫って卵を温め続けた。そして先日、ついに5羽の雛がかえった。見上げた根性だ。

あとは、ひたすら巣立ちの日を待つのみ。

 

キセキレイ。

ひとつ、焼き鳥以外のトリを覚えたぞ。

2021年7月9日

棄国子女

「棄国子女 転がる石という生き方」 片岡恭子著 春秋社

 著者は、コロナ禍前まで「ハンドキャリー」という仕事をしていた女性。国際宅配便でも間に合わない大急ぎの荷物を、飛行機に飛び乗って世界の空港へ手渡しに行く「運び屋」だ。

 お金をもらって海外に行けて、しかもマイレージが貯まる。やってみたい。

だがこの本は、運び屋になるまでの物語。著者は中学時代、父を過労死で失って母子家庭となり、その母から言葉の暴力を受け続けた。心を病んだ著者は、「自分自身の再生を賭けた荒療治」として、南米大陸放浪の旅に出る。

自分も10代、20代に東南アジアと南アジアを放浪したので、著者が貧困地域の旅で得た感慨に、とても共感できた。以下に、印象的なことばを書き留めておきます。

 

「人以外に絶望する動物はいない。娼婦やゲリラが決して絶望などしていないのは、人というよりもむしろ動物に近い生活を送っているということなのかも知れない」

「衣食住が足りてできた暇に教育を受けた頭で、もう充分に幸福なはずなのにわざわざ絶望する。本当は絶望なんかどこにもない。それは思考する余裕が作り出した幻影にすぎないのだ」

「旅に出るようになって初めて、引きこもるのも家族が不仲なのも、生活にそれだけのゆとりがあるからだと気づいた。経済的な余裕がないなら、家族全員が働かなければ生きていけない。お互いに協力せざるを得ないのだ」

「警察や軍隊というものは、自国民を守るためにあるのではなく、体制に逆らう者を制圧するためにある」

「世界は会社だけじゃない。世界は学校だけじゃない。世界は日本だけじゃない」

「幸せになるためのルールなんてない。社会や教育によって刷り込まれた人並みの幸せを得るためのルールが、どれだけの人を不幸にしていることか」

「おそらく誰しもが労働によってではなく、好きなことや得意なことで誰かを喜ばせることができるし、そうすべきなのだと思う。あるいは、ただそこに自分らしく在るだけで、すでに喜んでくれる人がいるかも知れないのだ」

「書くことで自分を解放し、それを読むことで誰かが解放されるなら、それ以上はなにも望まない」

「日本は今、殺伐としている。特に海外から帰ってくるとよくわかる。こんなに殺気立った緊張感が張りつめている国を私は他に知らない」

「私は今日も、ここではないどこかを想って日本を生きる。ここではないどこかでも生きていける、いつでもここではないどこかへ逃げられると、過呼吸を起こしそうな自分に言い聞かせながら」

Kirigamine Japan, Summer 2021




2021年7月3日

ユートピアはカゴの中

 

 大病で臓器を摘出、度重なる手術で生死をさまよった友人。

 うつで休職中に、体調が戻らないまま雪山に登り、遭難死した友人。

 いままで日本の大企業に勤める同世代が、働きすぎで散々な目に遭ってきたのを目にした。

 最近は自営業の友だちも増えたが、では彼らがワークライフバランスのとれた暮らしをしているかというと、そうでもない。

 お客さんの要求に応えようとして、あるいは漠とした不安から、つい睡眠時間を削り、土日も関係なく働いてしまうみたい。

 

 残業が多く休みが取りにくい日本に比べて、欧米はワークライフバランスに優れ、女性も働きやすい理想郷なのか…?

そんな話は大間違いだというのが、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏。以下、日経ビジネス電子版に載った彼の報告の要約です。

 

・欧州には労働者とエリート層の2つの世界が存在し、働き方は全く異なる

・欧州で事務職として入社した人は、ずっと事務をやる。持っている資格に従って「一生事務のまま」、上にも横にも閉じられた箱の中でキャリアを全うする。彼らは自分のことを「籠の鳥」「箱の中のネズミ」と自嘲気味に呼ぶ

・年収も硬直的で、20代で300万円、50代になっても350万円

・同じ仕事を長くしていれば熟練度は上がり、同時に倦怠感も高まるという2つの理由で、労働時間は短い。残業はほとんどなく、有給も完全消化

・いまの仕事が機械化などで不要となった場合は、職業訓練所に通って新たな職業資格を取る。ひとつの「籠」から出ても、年収300400万円の別の籠に移るだけの生活を一生続ける

・欧州に憧れる多くの日本人は「家に帰ると趣味や教養の時間になる」「地域活動や社会奉仕の時間が始まる」とエクセレントな想像をするが、彼らに聞くと答えはただ、「お腹がすくから家に帰る」

・長い夏休み、サガンの小説では南仏の避暑地でバカンスすることになっているが、現実にはパリ郊外の公園にブルーシートを敷いてキャンプしていたり

・バカ高い物価と低賃金のはざまで、そんな生活をしているのが彼らの実情。それでも共働きすれば世帯年収は700万円。なんとか生活は成り立つ

・一方で、欧米のエリートは夜討ち朝駆けの長時間労働。フルに育休を取るような男性は「家庭を選んだ人」と呼ばれ、昇進トラックから外れていく

・つまりワークライフバランスの充実した欧米の生き方とは、「籠の鳥労働者」の世界の話。日本人はふたつの世界をごっちゃにしている

 

…世の中、そうそうウマい話はないようで。

Kirigamine Japan, Summer 2021


肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...