2021年4月23日

裏ノ森ニ居リマス


 この春、本州中部・某市の臨時職員になった。

ずっと民間で働いてきて、初めての公僕。

 いまや日本の公務員の4割が、私のような非正規職員らしい。

 

 覚悟はしていたが、本当に驚くことばかり。

 いちばん驚いたのは、直属の上司(女性)のランチだ。

毎回判で押したように、持参のレトルトカレー。

 ただ一度の例外もない。

 

 次に驚いたのが、働き方にマニュアルがないこと。

 「あなたの好きなようにやればいいんですよ」

先輩がいう。

そして初出勤から3日目には、週末のひとり勤務を任された。

 

週休4日。

上司もおおらかだ。

ある日の午後、在宅勤務中の上司から電話がかかってきた。

 「今日は雨で人が来ないから、〇〇めに△△っていいですよ~」

 壁の時計を見上げると、まだ2時すぎ…

 

勤務時間中の外出も、ほぼ自由。

 といっても、職場の半径10キロ内にコンビニはおろか、信号さえない。

 見渡す限り、カラマツやシラカバ、トウヒの森が続いている。

 だからここでの「外出」は、自動的に遊歩道の整備を意味する。

 

 よく晴れた日、登山靴を履き、地図を片手に歩きだす。

 道標を点検しながら、くまなく森を巡回すると、丸1日かかる。

 小屋を留守にする前に、ホワイトボードを玄関にぶら下げる。

 「裏ノ森ニ居リマス」

 

 まるで、宮沢賢治の世界。

世の中、いろんな仕事があるもんだ。


Matsumoto Japan, Spring 2021


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