2021年4月30日

自動車社会は、酔っぱらえない

 森の中にある自宅から、さらに森の奥にある職場へ。

 山道をクルマで4キロ、所要時間は8分ほどだ。

とても恵まれた通勤環境だが、森の管理という仕事なので、さすがに在宅ワークはできない。

スーパーへ食料を買いに行くときは、同じ道を反対方向に13キロほど下っていく。

 東京を離れてから、クルマが必需品、というより生命線になった。


 国全体を見渡しても、日本人は車離れしていないという。

 日経ビジネス電子版で読んだ、柳瀬博一・東京工業大学教授と、ファンドマネージャー・藤野英人氏の対談が面白かったので、一部を紹介します。

 

・メディアは「若者の自動車離れ」を伝えるが、実際の日本の自動車保有台数は、これまでずっと右肩上がり

・1世帯当たり自家用車保有台数がもっとも少ないのは東京。自動車離れは、東京の人が抱くイメージ。都心で働く政治家、官僚、企業トップ、マスメディアの人たちは、かなり偏った世界で暮らしている

・鉄道が充実した大都市圏に住む人は4000万人。残り8000万人の日本人は、自動車があったほうが便利、あるいは、ないと不便な世界で暮らしている

・新型コロナウイルスの感染拡大で、インターネットで大半の仕事ができる人が都心部から郊外に移住し、「新モータリゼーション」が起きている

Facebookのグループ「ゲコノミスト(お酒を飲まない生き方を楽しむ会)」では、最近になって飲まなくなった人、つまり「飲めるけど飲まない人」が増えている

・「飲まない」という選択肢を取るのは、若者とリタイア世代、高齢者。若者が酒を飲まない理由は、タテ社会が嫌いだから。そして郊外に引っ越して車に乗る機会が増え、飲む機会が減った人たち

・鉄道を使う従来の通勤の仕組みと飲酒カルチャー、そして上下関係は相性がいい。飲むという行為は、電車文化だから成立する。自動車社会は、酔っぱらえない

・藤野が経営する会社で社員の在宅ワークを強化したら、有給休暇の消化率が下がってしまった。通勤でムダな体力を消耗しなくなり、病気になる人が減ったのも一因 


Seikoji, Tateshina Japan, April 2021


2021年4月23日

裏ノ森ニ居リマス


 この春、本州中部・某市の臨時職員になった。

ずっと民間で働いてきて、初めての公僕。

 いまや日本の公務員の4割が、私のような非正規職員らしい。

 

 覚悟はしていたが、本当に驚くことばかり。

 いちばん驚いたのは、直属の上司(女性)のランチだ。

毎回判で押したように、持参のレトルトカレー。

 ただ一度の例外もない。

 

 次に驚いたのが、働き方にマニュアルがないこと。

 「あなたの好きなようにやればいいんですよ」

先輩がいう。

そして初出勤から3日目には、週末のひとり勤務を任された。

 

週休4日。

上司もおおらかだ。

ある日の午後、在宅勤務中の上司から電話がかかってきた。

 「今日は雨で人が来ないから、〇〇めに△△っていいですよ~」

 壁の時計を見上げると、まだ2時すぎ…

 

勤務時間中の外出も、ほぼ自由。

 といっても、職場の半径10キロ内にコンビニはおろか、信号さえない。

 見渡す限り、カラマツやシラカバ、トウヒの森が続いている。

 だからここでの「外出」は、自動的に遊歩道の整備を意味する。

 

 よく晴れた日、登山靴を履き、地図を片手に歩きだす。

 道標を点検しながら、くまなく森を巡回すると、丸1日かかる。

 小屋を留守にする前に、ホワイトボードを玄関にぶら下げる。

 「裏ノ森ニ居リマス」

 

 まるで、宮沢賢治の世界。

世の中、いろんな仕事があるもんだ。


Matsumoto Japan, Spring 2021


2021年4月16日

コロナ禍は、キャリアの踊り場

 

   ほぼ毎朝、オンラインで受けている英会話の授業。

 最近は、講師リストに新任の先生がたくさん入ってくる。

 コロナ禍の中で自らを見つめ直し、英語講師をキャリアの踊り場にして、次のステージに飛び立とうとしている人たちだ。

 

 以下、初対面の先生たちとの会話から。

「子どもの頃から生きものが大好きで、傷ついた動物たちを治してあげたくて獣医学部に進んだんだ。でも、最初の就職先が養鶏場。いずれ食肉になるニワトリ相手に10年働いたけど、違う世界が見たくなって去年辞めたよ。きょうだいが教師をしているので、自分も英語講師になってみた。この仕事も好きだけど、これから必要な研修を受けて、今度こそ身近な動物たちの病気やケガを治したい」(ベン先生・34歳男性)

「農学者として、農家を回って土壌改善の指導をしていましたが、うつ病で退職しました。今年結婚して、コロナが怖いのでステイホームで家事ばかりしていたら、病気が悪化。主治医を変えても改善しませんでした。でも英会話講師を始めたら、とたんに夜眠れるようになった。医者も驚いていましたよ。人との会話が、私の心にいい影響を与えてくれています」(メイアン先生・29歳女性)

「ずっとミニコミ誌のライターをしてたんだけど、本当はForensic Chemist (法化学者・犯罪化学者)になりたかったんだ。すでに必要な学位を取って、今は英語講師をしながら職の空きを待っているところ。遺体に接するのは大丈夫かって? まだ経験がないから何とも言えないけど…。私がこの仕事を志したのは、正義のため。この国は、真犯人を特定するための科学的な捜査法がとても遅れているよ」(ダル先生・33歳女性)

「ホテルで13年働き、最近までエグゼクティブフロアのマネージャーでした。4年前、すぐ近くの別のホテルで乱射事件があり、30人以上が殺されました。そこはカジノホテルで、犯人は賭けに負けた客。カジノホテルはアブナイ人が多い。本当に怖かったです。このコロナ禍では、私のホテルが無症状患者の収容先に。自分が感染して3歳の我が子に移すのが怖くて、仕事を辞めました。でもコロナが収まったら、やっぱり今までの経験を生かせるホテル業界に戻りたい」(レヴィ先生・30代女性)

※先生は全員、フィリピンに暮らすフィリピン人です

Matsumoto, Japan






2021年4月9日

大なべ vs レトルト、カレー対決

 

 数年前、レトルトカレーの市場規模が、初めてカレールーを上回った。

 家庭の食卓を20年にわたって調査している岩村暢子・大正大学客員教授によると、最近は家族全員が揃った食卓でも、それぞれが好きなレトルトカレーを食べるらしい。

 食卓の風景から、家族や家庭が持つ重要性がどんどん小さくなっているのがわかるという(岩村教授のインタビュー記事・328日付読売新聞より)。

・子どもが中学生になると、もう家族一緒に食事できなくなる。朝・放課後・土日に部活の練習があるから。高校生は塾、大学生はバイトがある

・サービス業などで交代制勤務に就く人が増え、親も食卓を囲めない

・個を尊重する教育を受けて育った人が増えた結果、食べ物の好き嫌いも個性として、無理強いしなくなった。そして食べるものだけでなく、食べる時間も自由でいいと考える

・栄養学や医学の知見も、同じものを同じ時間に食べることを否定する方向にある。健康や運動能力向上のためには、個人に合わせた食が必要

・コロナ禍の外出自粛生活では、家族が長く一緒にいる窮屈さ、不自由さを感じた人が多い。自分の時間が浸食されているという感覚がある

・大事なことは家の中で直接話さず、メールやLINEを使う。波風を立てず、仲良く暮らす

 そして食はこれから、個々の特性に合わせた「最適食」の方向へ、科学的にますます進化していくという。

 

 ひとり暮らしを始めた私を気遣ってくれる友だちが、毎日の食事を写真に撮ってLINEで送れ、という。

 インスタントやレトルトの写真を送るのは恥ずかしいので、たとえ簡単な料理でも自分で作ろう、というモチベーションになっている。

 その友だちは4人家族。先日は、大きな鍋においしそうなカレーが煮えている写真が送られて来た。

 

 最近のレトルトカレーは、タイのマッサマンカレーやプーパッポンカレー、ネパールのダルバート、南インド風などバラエティ豊かで、味も本格的だ。

 それでも、所詮はレトルト。家族の誰かが大なべで作って、みんなで食べるカレーの味には、はるかに及ばないと思うのだが…



2021年4月3日

年度末ホテル・ライフ

 

 東京の知人に、会員制リゾートホテルの宿泊券を束で頂いた。

 まだ遠出は控えたいから、とのこと。宿泊券の有効期限は、3月末日。

 日々の用事はオンラインで済むので、さっそく利用させて頂く。直前予約なのに、簡単に部屋が取れた。全90室のうち、1泊目は7室、2泊目は4室、その後も軒並みひとケタしか予約がないという。

家から車で20分ほどの森にあるそのホテルに滞在し、日中はNPOの会議に出たり、職場の研修に行ったりして過ごした。料理や食器洗い、掃除、洗濯、買い物から解放されて、快適なホテルライフだった。

館内のレストランでコースディナーを食べていると、隣のテーブルからハワイの別荘がどうの、という会話が聞こえてくる。客層はカップルばかり。少々居心地が悪く、その後はテイクアウトして部屋で食べた。

 

 滞在中に受講した、オンライン英会話。その日の先生は偶然、五つ星ホテルで働く31歳のホテルウーマンだった。

「マニラのデュシタニ(旧ニッコーホテル)で働いています。大学の観光学科を出て、インターコンチネンタルとホリデイ・インで働き、ここが3社め」

「セールス担当なので、毎日が外回り。真夏にスーツで街中を駆け回るのは大変だけど、色々な人に会えるのがこの仕事の魅力です」

「ビジネススーツは会社経費で買えて、ランチも無料で食べられるので、たいていホテル内のイタリアンに行きます。ボンゴレが大好き」

「アメリカ、オーストラリア、日本からのゲストで連日賑わっていたのに、コロナ禍で外国人がいなくなり、今ホテルはフィリピン人の一時隔離先になっています」

「ゲストが減って週1日しか働けないので、副業として4か月前にオンライン英会話講師を始めました。日本人は礼儀正しいから好き。同僚にもこの仕事を勧めています」

「今なら1泊90ドルで泊まれますよ!」

 

 私の部屋のハウスキーピング担当は、ベトナム人女性。コロナ禍で、ずっと帰国できないでいるという。

どこの国でも、いまホテルで働く人は大変だ。

 ようやくワクチン接種が始まり、夜明けは近いかも知れない。



自然学校で

  このところ、勤務先の自然学校に連日、首都圏の小中学校がやってくる。 先日、ある北関東の私立中の先生から「ウチの生徒、新 NISA の話になると目の色が変わります。実際に株式投資を始めた子もいますよ」という話を聞いた。 中学生から株式投資! 未成年でも証券口座を開けるん...