「クリエイティビティは移動距離に比例する」
こう言ったのは、実業家の本田直之だったか。
彼はハワイに自宅を構えて、日本と往復する生活をしている。
ちなみに、毎日2便飛んでいたANAの東京~ハワイ線は、コロナ禍のいまは「毎月2便」に激減している。
クリエイティビティは、移動距離に比例する。
新聞社の海外特派員だった3年間、飛行機でアジア諸国を飛び回った。年間100フライト以上、距離にして約10万マイル。
でも、偉大なクリエイターにはなれなかった。
それどころか、どんどん疲弊していくばかり。
行き先が大地震の被災地だったり、自爆テロ現場だったり、クーデターが起きた国だったせいだろうか。
やっぱり、行き先はハワイに限る。
コロナを奇貨として、ローカル線で小さな旅に出た。
富士と甲府を結ぶ身延線と、松本~糸魚川の大糸線。
車窓を移ろう錦繡の山を眺めながら、どんどん自分がクリエイティブになっていく。
・・・と言いたいところだが、思わぬ伏兵が。
車内アナウンスだ。
やれ整理券を取れだの、ドアは自動で開かないからボタンを押せだの、この駅は一番前のドアしか開かないから気をつけろだの、切符は運転士に渡せだの、精算機は1000円札しか両替できないから小銭を用意せよだの・・・
駅を出発した後と、次の駅に到着する前の2回、ほぼ同じ文言が、大音量の人工音声で繰り返される。
耳栓代わりのイヤホンが、何の用もなさないほどうるさかった。
身延線88キロ、39駅。
大糸線105キロ、41駅。
はぁ・・・
旅情に浸るどころか、終点に着くころには廃人寸前。
間違っても俳人にはなれない。
急ぐ旅でもないのに、帰りは新幹線や特急に乗って、別ルートで帰った。
もし外国人がもっと増えて、英語や中国語、韓国語のアナウンスが追加されたら、ローカル線の車内から静寂が消えてしまう。
私が特別、音に対して繊細すぎるのだろうか。
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