秋の夜長に、妻の入院前後に読んだ本を再読した。
元NHKアナウンサーの絵門ゆう子さんは、自身ががんと診断されてから産業カウンセラーの資格を取り、多くのがん患者と接してきた。
絵門さんによると、勇気を奮って訪れたがん専門病院や大学病院で、初対面の医師に、救いようのない言葉を投げかけられる場合が非常に多いという。
「がんでも私は不思議に元気」(絵門ゆう子著、新潮社)に実例が出ている。
「あなた、あと3か月だよ。なんでここに来たの?」
「あなたのようになった人で、5年も10年も生きた人はいませんよ」
「ここに来たからって、治ると思ってもらっては困りますからね。何をしたところで、あなたは必ずがんで死にますから」
「もうあなたに効く薬はありませんから。身辺整理でもしたらどうですか?」
「こんな状態になった人は、普通は旅行することとかを考えるんですよ」
「あなたみたいな人は治しようがないので、ホスピスに紹介状書きますから」
「悪いのはあなたの運ですからね。私たち医者が悪いんじゃありませんから」
・・・わが耳を疑う。人間以下だ。
日野原重明・元聖路加国際病院院長は、絵門さんとの対談で
「医師が診断をし、治療をするとき、患者から希望を取るのは暴力です。ところが、はっきり言うことがカッコのいい知的な医者だ、というふうなサイエンスがのさばっている。そのような教育は、どうしても間違っています」
と言っている(同書より)。
この本が書かれたのが2005年。その後、状況は改善されたのだろうか。
絵門さんは、医者が余命を告げることにも否定的だった。
「死刑宣告された死刑囚だって、執行日は告げられない。それを知らされたら狂乱してしまうかもしれないと、死刑囚の精神を守るための配慮であろう。であれば、「余命」を言われてしまうがん患者は、何一つ罪を犯していないのに、死刑囚に施される配慮さえされていないことになる」
死生学が専門の哲学者アルフォンス・デーケンさんも、その著書「死とどう向き合うか」(NHK出版)の中で
「人間は真実を知る権利とともに、知ることを拒む権利を持っている」と書いている。
「患者自身が知りたいという意欲を持っているか、告げないことで患者の心に葛藤を与えていないかなど、さまざまな点を検討してから告知すべき。決して告げることだけを優先させてはいけない」(同書より)
余命宣告されたその日に「これでお金の心配をしなくて済む」と、貯金でオープンカーを買ったのは、絵本作家の佐野洋子さん。腹の据わった人だ(「死ぬ気まんまん」佐野洋子著、光文社)。
ちなみに妻の主治医は、「たとえ手術中に致命的なミスがあっても、この人だったら笑って死ねる」とさえ思える人だった。
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