若葉が生い茂ってくると、森の家はネット環境が悪化する。つながる場所を求めて、クルマで砂利道をさまよった。10分後にオンライン飲み会が始まる。
シフト勤務で忙しい彼らに合わせて、スタートは平日の昼下がり。スマホをダッシュボードに立て、運転席からジュースで乾杯した。
いかつい顔の旧友が、自宅で寛ぐ姿が画面に見える。
「やっと会えたね~ 娘さん何歳になった?」
「いま中2です」
「じゃ、反抗期の最中だね」
「どうなんだろう。いまだにボクの隣で寝るし、一緒にお風呂に入ったりもしますよ」
一同「エエーッ!」「ヤダ―!」「何それ!」
その子が生まれた時、彼は育児休暇を取った。長時間労働が当たり前の会社では、育休制度も「絵にかいた餅」。それまで、誰も取ろうとしなかった。
「遅くまで会社にいる」という事実のみで評価されがちな職場で、男女社員を通じて初の育休申請。風当たりは強かった。当時の上司からは、かなり嫌味を言われたらしい。今後のキャリア形成への影響も、覚悟の上での行動だ。
このふやけたお父さん、実は気骨のある人なのだ。
そうこうするうちに、当の娘さんが学校から帰ってきた。コロナで短縮授業だったといい、画面上の私たちにあいさつすると、リビングで勉強を始めた。
「数学は、もう高1の問題を解いてるみたいなんですよ~」
チラチラと娘の様子を伺いながら、嬉しそうなお父さん。
「まだやってたの?」彼の背後で声がする。今度は奥さんが、バイトから帰ってきた。ニコニコ顔の女性が、画面に映った。
彼が体を張って守ってきた家庭は、何だかとてもいい雰囲気だ。
緊急事態宣言の発令中、日本企業の社員を対象に行われた幸福度アンケートでは、「とても幸せになった」から「とても不幸になった」まで、回答が二極化した。
「幸せになった」と答えた人たちは、リモートワークの浸透で家族と過ごせる時間が増えたことが影響している、という(6月7日付読売新聞)。
そして不幸中の幸いで、「私たちは人類史上、つながるためのツールに最も恵まれた状態でコロナ禍に遭遇」(前野隆司・慶大教授)したらしい。
オンライン飲み会は、ひと言でいえば「隔靴搔痒」。物足りなさは残る。
でも職場では仮面を被って働く人が、ふと素顔を見せたり、家庭の様子を垣間見ることができたり。
なかなかどうして、悪くない。
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