2020年5月30日

自粛警察こわい


 ネパールに住む知人が、終わりの見えないロックダウン(都市封鎖)に悲鳴を上げている。

 外出制限が2か月以上も続き、なお新型コロナの感染者・死者が増え続ける。空港が閉鎖されているので、帰国も容易でない。

 医療環境が整っているはずのアメリカでも、死者10万人超。10年以上続いたベトナム戦争での戦死者数を、たった2か月で超えた。

 一方の日本では、感染者・死者が順調に減って、「緊急事態宣言」があっけなく、全面解除された。

 政府の外出自粛要請に強制力はなかったのに、なぜ日本人は従うのか?

外国人には、かなり不可解に見えるらしい。

「ことごとく見当違いに見えるが、奇妙にもうまくいっているようだ」(米誌フォーリン・ポリシー電子版)

 安倍首相は会見で「日本モデルの底力を示した」と語り、西村経済再生相は日本の医療体制の充実ぶり、日本人の規範意識の高さを誇った。

学者たちは、この現象をどう見ているだろう。

行動経済学を専門にする依田高典・京大教授によると、人間のタイプは①自発的に行動を変えられる人(2割)②他人に言われて変えられる人(6割)③絶対に変えない人(2割)に大別される。

今回、変えられる人のほぼすべてが政府の要請を受け入れたことになり、これは自分の行動が他人のためになるという「利他心」をうまく刺激したからではないか、という。(5月21日付読売新聞より)

ゲーム理論を専門にする安田洋祐・大阪大准教授も、強制的なロックダウンをしなくても、一人ひとりが少しずつ我慢して協力すれば、社会全体として大きなメリットが得られることがわかったのでは、と評価している(同)。

刑事法学が専門の佐藤直樹・九州工大名誉教授の意見は、だいぶ違った。

・罰則がないのになぜ従うのか? 日本には、欧米にない「世間」があるから

・世間=日本人が集団になった時に発生する力学

・世間では、みんな同じでないといけないという「同調圧力」がかかり、人々は行動を自主的に規制する

・日本には、法律とは別の「世間のルール」があるため、罰則のない「要請」で必要十分

・感染者や医療従事者、その家族を差別し、世間から排除しようとする動きが目立つのも、同調圧力の強さゆえ(同)

 

 私が4月から住む長野では、東京ナンバーのクルマが「私は地元〇〇市民です」と紙に書いて貼っている。国家権力より、世間の目が気になるのだ。

 そういえば、自分のクルマも首都圏ナンバー。でも貼り紙はしていない。

そのうち、「自粛警察」に検挙されるかも・・・?

        


2020年5月23日

コロナ・ショック! タイ航空の倒産


 わが愛しのタイ航空が、経営破綻してしまった。

 新型コロナの威力、恐るべし。



 初めてタイ航空に乗ったのは、バンコク経由でインドを旅した19歳の時。

そして、バンコクを拠点にアジアのニュースを追っていた頃は、ジャカルタ、マニラ、ハノイ、イスラマバード、カトマンズ、アンマン、ドバイ、シドニー、北京へと、3年間で120回も乗った。

 タイ航空をひと言で表現すれば、「さりげなく、さりげあるもの」。

 たとえばJALANAに乗ると、会社の経費で飛行機を使い、マイレージの上級会員になった日本人サラリーマンがふんぞり返っている。彼らのぞんざいさと、客室乗務員が作る必死の笑顔。あまり見たくない光景だ。

タイ航空の機内は、もっとコスモポリタン的。国際線はもちろん、国内線でもタイ人乗客は少ない。欧米やアジアなど、いろいろな国籍の男女が、仕事、観光、移住、いろいろな目的で乗り合わせる。

 そんな機内で、自然な笑顔を浮かべたキャビンクルーが、柔らかな物腰で、誰にでも公平なサービスを提供する。

 一般に、日本人に比べると時間にルーズなタイ人だが、タイ航空は意外にも?時間に正確だった。仕事で100回以上乗って、飛行機が遅れて決定的場面を撮り逃したことは皆無だった。

 一度だけ、取材を終えて乗った帰りの便が、滑走路手前で離陸を中止して、引き返した。「機体に不具合が見つかった」と、機長からアナウンス。

 すると、われわれ乗客より先に、客室乗務員が不機嫌になった。バンコクでデートの約束でもあるのか、とても声を掛けられない雰囲気。

不測の事態が起きた時のプロ意識は、少し足りないような・・・

 またタイ社会では、おかま、いやゲイやトランスジェンダーの人をよく見かけるが、タイ航空の客室乗務員にも多かった。彼ら(彼女ら?)はまさに「気は優しくて力持ち」。これが天職とばかり、楽しそうに働いていた。

 たまに、シンガポール航空にも乗った。この会社も、機内サービスには定評がある。でも満席のエコノミーでは、客室乗務員が機内食を手に走り回る。

「廊下は走らない!」小学校で教わらないのかなあ。

いくら忙しくても、あくまでマイペース。決して優雅さを失わないタイ航空が、やっぱり好きだ。



 自由に空を飛んで、世界中どこにでも行けることを、当たり前だと思っていた。新型コロナが、すべてを変えてしまった。

 もし空の旅ができる世に戻ったら、倒産を機に「汚職と縁故主義が蔓延する国営企業」の体質を払しょくし、生まれ変わったタイ航空に乗ってみたい。


外出自粛中のニンゲンを眺める



2020年5月16日

台風の時は家にいろ。川なんか見に行ったらあかんで


新型コロナウイルスの感染拡大を、人類5000年史の中に位置づけると、どのような意味を持つのか。

世界1200都市を訪れ、読んだ本は1万冊。知の巨人、出口治明・立命館アジア太平洋大学(APU)学長のインタビュー抜粋です(日経ビジネスより)。

・一部の人が「グローバリゼーションがコロナを生んだのだから、グローバリゼーションを見直さないといけない」と言っている。そんなバカなことはない

・例えば日本が入国制限をしているのは、各国が出入国管理をしっかりやっているから。もし世界が何もしなかったら、日本は入国制限などできない

・都市封鎖や感染状況のデータも、世界中でシェアされている。我々はグローバリゼーションのおかげで、コロナの被害をこの程度に留められている

・自動車がなければ物流が止まり、ステイホームできない。自動車は1年間で100万人以上の人を殺しているが、自動車を廃止しようという人はいない

・「パンデミックが起こったからグローバリゼーションをやめよう」というのは、「自動車は人を殺すから自動車をなくしてしまえ」という議論と同じ

・コロナ・ウイルスの感染拡大は、超大型台風のような自然現象。だから、治療薬やワクチンが開発されるまでは「ステイホーム」。「台風の時には家にいろ。川なんか見に行ったらあかんで」というのと同じこと

・今回、特徴的なのは、ウイルス対策に取り組む指導者たちの発言や行動を、全世界の人たちがSNSでほぼ同時に見ていること

・いま評価されている指導者は、メルケル独首相と小池百合子・東京都知事。ドイツと東京の共通項は、財政黒字。キケロが「戦争はお金やで」と言ったが、ウイルスとの戦争でも、財政が潤沢なら思い切った手が打てる

・フランス、スペイン、イタリア、米国などで、医療従事者たちにベランダから拍手を送ろうという運動が起きた。日本では、医療従事者の子どもの保育を断られたり、東京ナンバーの車に暴言を吐く人の様子が映像で流されたり

・指導者だけでなく、私たちの社会の成熟度も、全世界で試されている

・歴史を振り返ると、パンデミックは必ずグローバリゼーションを加速させてきた。ペストがルネサンスと宗教改革を生み、スペイン風邪が第一次世界大戦を終わらせて国際連盟を生んだ

・いま、マスクのほとんどは中国で生産されている。サプライチェーンの再構築には時間と金がかかる。世界の協調なくして、ウイルスには勝てない

・現在のような複雑な社会は、一人の賢い人間がコントロールできるものではない。だから社会主義は失敗した。中国が現体制を維持できるのは、秦の始皇帝から2000年続く中央集権の伝統があるから

・「賢い人がいなければ、市場の原理に任せてみんなでワイワイ、ガヤガヤやるしかない。だから、市場経済が勝ったわけです。ですから僕は、市民がしっかりしていれば、監視社会には向かわないと思います」


Nagano Japan, Spring 2020

2020年5月9日

ステイホームは人それぞれ


 誘われて、Zoom飲み会に参加してみた。

 “ウェブ会議システム”って、いったい何者? Skypeさえ、最近オンライン英会話で初めて使ったばかり。会議で・・・飲み会? わからない。

 ただリンクをクリックするだけかと思ったら、甘かった。まずアプリをダウンロードして・・・ミーティングIDを入力して・・・パスワードを入れて・・・

 30分も遅刻して、やっと入室に成功した。



 そういえばこの飲み会、誰が参加するのか聞いてない。闇鍋というか、ブラインドデートというか。5分割されたスマホ画面に現れたのは、横浜、大阪、福岡、台北の友人たち。6年ぶりに「会う」友だちもいた。

 Zoom飲み会が初めて、という人は私の他にもいて、入室に50分かかったらしい。さらには1時間も悪戦苦闘して、ついに入室できない人も発生。

類は友を呼ぶ。

さっきから画面の一角に、ぎこちなく動く変なおじさんが映っている。私だ。どうしても慣れない。つい、畳の上に正座してしまう。

皆がビールやワインを手にリラックスしている中、自分だけが静止画像。



外出自粛要請で、友人たちはそれぞれ、自宅のリビングや寝室を背景に飲んでいる。でも横浜の友だちは毎日、昼は会社に行っているという。

 大阪と福岡の友だちは、新聞社で働く報道カメラマン。会社から撮影機材を持ち帰り、タクシーで直接、家から取材現場に向かっている。

「これをテレワークと言っていいのかどうか・・・」

 でも、上司の顔を見なくて済むからいいよね。

「そうでもないですよ。社会の動きが止まっている中で、写真になるようなニュースを探すのは、すごく大変。家でもずっとネタ探しです」

 リスクを冒して街に出て、できるだけ正確な情報を読者に伝える。新聞社で働く人たちも、立派なエッセンシャル・ワーカーだ。

 かと思えば、もうひとりの友だちは、

「仕事ついでに、店でひとり焼肉ランチして、ビールも飲んじゃった」

やりたい放題だ。ステイホームも人それぞれ、か。

 台北で暮らす友だちによると、台湾ではかなり前から、新規感染者数がゼロ。外出もできて、「新型コロナ」はもはや海外の話題になっているらしい。台湾政府は2週間に9枚、市民が必ずマスクを入手できるようにしている。

また、大阪には「中国系ドラッグストアが集まる地域」があって、路上でマスクをたたき売りしていると聞いた。

 Zoomの向こうの世界は・・・広かった。


Nagano Japan, Spring 2020

2020年5月2日

コロナの周辺~新聞記事より


・第一次大戦末に流行した「スペイン風邪」の致死率は2%台で、2500万人の命を奪った。新型コロナの致死率も2%台と見なしている。現在、世界の総人口は当時の4倍。死者数はスペイン風邪より増えるかも知れない

・スペイン風邪の流行は1年余り続いた。新型コロナの流行も1年以上、2年続く可能性も

16世紀、スペインの探検家ピサロが率いる170人が、兵力8万人の南米インカ帝国を征服した。スペイン兵が持ち込んだ天然痘ウイルスが、免疫のないインカ兵に感染して「生物兵器」になった。今回、私は中国当局の責任を問う

           (以上、ジャレド・ダイアモンド 米人類生態学者)

・ニューヨークではコロナ禍が劇的に広がり、多くの命が失われている。健康のすぐれない人、貧しい人に対して特に過酷な状況だ。米国の甚大な貧富格差が、健康格差として露骨に表れている

・公的医療保険制度が整っていない米国は、健康を手にする権利を明確な基本的人権として認めていない例外的な先進国だ

  (以上、ジョセフ・スティグリッツ 米経済学者)

・危機は経済弱者に厳しく当たる。新型コロナの感染拡大に伴う経済封鎖により、世界で約5億人が貧困に追い込まれる(オックスファム 国際民間団体)

・日本政府が支給する国民1人あたり10万円は、「打ち出の小づち」のようにお金が湧いてくるわけではない。赤字国債が財源となる今回の場合、将来の国民が支払う税金を配り直しているのが実態だ
          (木内登英 野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)

・「コロナ後」の世界はどうなるか。短期的にモノや人の動きが滞るとしても、長続きしない。経済の立て直しに自由貿易は不可欠だから

・移民も増え続ける。米国でコロナの最前線でがんばっている医師の4人に1人、看護師の6人に1人は外国生まれ。欧米社会は移民抜きでは成り立たない

・中長期的には国家の役割が増し、規模も権限も拡大する。「大きな政府」への流れが強まる

・多くの国が中国への過度の依存をやめる。重要な産業の国内回帰も

・巨大IT企業は今回の「勝ち組」として、一段と影響力を増す

  (以上、大塚隆一 読売新聞編集委員)

・恋人の下宿に移って外出禁止の生活を始めたイタリアの男子学生は、「コロナ時代には愛だ」と、父親からエールを送られた (内田洋子 ミラノ在住の作家)

・「イタリアはヨーロッパの玄関である。自分たちだけでなく、他への責任がある」
「生きていたら、経済のどん底からも必ず立ち直れる。物事の重要さの順位を肝に銘じ、弱い人を守り、他人への責任を果たしましょう」

  (ジュゼッペ・コンテ イタリア首相)

Tateshina Japan, spring 2020

肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...