2020年4月4日

雑菌王


19の春に、インドを旅した。

 当時は、黄色い表紙のガイドブックが大人気。「11000円で世界を歩こう」と喧伝していた。

 それを真に受けて、安宿に泊まり、ゴミだらけの路地でカレーを食べた。見かけも味も泥みたいなカレーは、やたら辛かった。テーブルにあった水差しの水を、がぶ飲みした。着いたその日から、腹を壊した。

 長距離バスに乗り、休憩時間に停車すると、周囲は見渡す限りの大平原。公衆トイレはおろか、身を隠す場所さえない。旅行者仲間にもらった下痢止めを飲み、青い顔をして耐えた。

インドを去る日までのひと月、ずっと下痢が続いた。

帰国した成田空港の検疫所で、下痢を申告すると、インド帰りはすぐ検便を採られる。

翌日、白衣とマスクの男数人が、アパートに現れた。

「保健所の者です。赤痢菌が出ました。すぐ隔離します」

 連行される私を、家主のおばあちゃんが、呆気に取られて見ている。

 法定伝染病は、治療費がタダだ。3食昼寝付きの隔離病棟で2週間を過ごし、娑婆に出ることが出来た。

 21の春、今度はビルマ(当時の呼称)を旅した。ただでさえ暑いこの国が、ことさら暑くなるのが5月。行ってから気づいた。あまりにも暑くて、安食堂の水をがぶ飲みした。

 帰国後、どうも体がだるい。白眼が黄色くなってきた。そして尿が茶色に。

 病院で検査すると、肝機能の値が、正常な人の数十倍になっている。

「急性A型肝炎です」。即入院。そのまま、1か月以上を病院で過ごした。

赤痢でも肝炎でも、「西洋医学の殿堂」ともいうべき大学病院に入院したのに、治療らしい治療は何もなかった。

赤痢の時は毎朝、看護婦さん(当時の呼称)に言われるままにお尻を出して、赤痢菌をチェックされるだけ。肝炎の時も、「小柴胡湯」という漢方薬を処方されただけだった。結局、自らの免疫力だけが頼りなのだ。

社会人になり、仕事で途上国を渡り歩いた。インドにも、何度も行った。タイには3年住んだ。でも病気らしい病気はおろか、下痢もしない。

いつの間にか、雑菌にとても強くなっていた。

 個人的には、COVID-19にも100%勝つ自信がある。こうして防戦一方、家に籠ってほとぼりが冷めるのを待つ毎日が、何とも歯がゆい。

ちゃんと食べて、きちんと寝て体の抵抗力をつける。自分でも気づかないうちにCOVID-19に感染し、「ちょっと風邪ひいたかな」ぐらいの症状で治る。

そしていつの間にか、世界中の人に免疫ができていた・・・

 たとえ楽観的すぎると言われても、このシナリオ、本気で信じている。



0 件のコメント:

コメントを投稿

肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...