2020年4月25日

#STAYHOME


 アマゾン物流倉庫でのバイトを辞めた途端に、同じ倉庫から新型コロナ陽性患者が出た。

 虫が知らせてくれたのかな。

アマゾンで思い出すのは、廊下から見える喫煙所だ。短い休憩タイム、壁を黒く塗られた小部屋には、いつも数十人がひしめいていた。充満する紫煙が、ナチスのガス室を連想させた。これぞ「ザ・3密」という光景だった。



「潜入ルポ amazon帝国」 横田増生著 小学館

アマゾンに対して余計な先入観を持たないよう、バイトを辞めるまで取っておいた本。著者の横田氏はユニクロの潜入ルポを書く際、身分を隠すために、戸籍上の名前を改名したという、筋金入りの「潜入ルポライター」だ。

でも彼のアマゾン潜入は、2週間だったらしい。私は5か月。勝ったぞ。



小田原のアマゾンに潜入した後、著者は海外に飛んだ。イギリスは「潜入取材の先進国」で、BBCやフィナンシャル・タイムズといった大手メディアの記者が、アマゾンに潜入し、ニュースや記事にしている。

英国アマゾンではロボットが導入され、小田原のように、重さ40キロのカートを引いて20キロも歩く必要はない。その代わりに、労働者は2メートル四方のスペースに押し込められ、屈伸運動を続ける羽目になった。

倉庫に潜入したセルビー記者(28)は、60キロ台だった体重が、5週間で6キロ減ったという。

著者が取材したもう一人、ブラッドワース氏(35)は、アマゾンに潜入した後、訪問介護、コールセンター、ウーバー運転手として働き、ルポを書いた。

この4つの仕事の中では「アマゾンが飛びぬけてひどかった。私にとっては物流センターというより監獄を思い起こされる場所だったね」

「アマゾンのひどさの一番の理由は、賃金が低いことじゃない。アルバイトの扱いがひどいことが問題なんだ。アルバイトを尊重する雰囲気が職場に全くと言っていいほどない。いつも貶められ、子どものように時間を管理される」

「アマゾンは、人を人として扱っていないところに最大の問題があるんだ」

 私や横田氏が日本のアマゾンで働いて得た感想は、万国共通のようだった。



世界の人々が在宅を強いられ、ろくに買い物にも行けない中で、アマゾンだけが儲かっている。送料無料で、何でも翌日には自宅に届けてくれるから、確かに便利だ。

 でも、この会社は危険だ。企業文化が、極端な利益至上主義。これ以上アマゾンの一人勝ちを許していると、そのうち価格決定権を握られて、私たちの生活を支配されてしまう。

 楽天、Yahoo! ショッピング、ZOZO、メルカリ・・・手間がかかっても割高でも、これからは本気で、ネット通販の注文を分散させようと思った。


#stayhome  @Tateshina Japan, April 2020

2020年4月18日

不要不急の?病院通い


 モータージャーナリストのF氏は、“子どもの教育に失敗した”という。

「バカ息子に『いまの時代、クルマを持つ意味がわからない』と言われた」。

 私も、バカ息子の意見に100%賛同する。

でも今度の家は、信州の山間部にある。最寄りのコンビニまで徒歩2時間、スーパーまで徒歩3時間(往復すると6時間)かかる。背に腹は代えられない。

「いまの時代」に逆行して、20年数ぶりにクルマを買った。

 町に下り、食料や日用雑貨を買って帰るだけで、いつの間にか40キロ走っている。化石燃料の消費に、後ろめたさを感じる。でもマイカー移動は、「コロナさん」との遭遇だけは最小限に抑えられる。

病院に行くと、いつも満杯の駐車場が、なぜかガラガラ。混み合うはずの会計窓口も、人影まばらだ。医師や看護師たちも、ヒマそうにしている。

聞けば、院内で「コロナさん」と遭遇することを恐れる患者たちが、不要不急の通院を控えているせいだ、という。

 ということは、多くの病院経営は、今まで「不要不急の通院者たち」に支えられていた???

わが家への帰り道。夜の森を走っていると、シカの目がヘッドライトに反射して光る。万が一、シカと衝突すれば、クルマは派手に壊れる一方、シカは平気で逃げていくそうだ。

しかも、自損事故扱いになる。保険が効かない。だから、最徐行する。

家に着いてライトを消すと、あたりは真っ暗闇。やがて目が慣れると、森の輪郭が、月明かりに浮かび上がる。数日前に降った雪が、まだ道端に残っている。車載の温度計によると、外は-1℃。見上げれば、満天の星空。



「クルマは購入後に愛着が増すのに、なぜ夫婦関係は年々悪くなるのか」

行動経済学者のダン・アリエリーが、この難題に挑んだ。

 中古で買った愛車は、最初その色が気に入らなくても、そのうち慣れる。でももしパートナーが、絶えず下手な冗談を言う人だったとしたら、無視し続けるのは、とても難しい。

クルマは動かないから、そのうち背景に溶け込んでいく。でもパートナーは、向こうから働きかけてくるために、注目しないわけにはいかないのだ。

毎朝ジョークを繰り返されると、時間がたてばたつほど、どんどん鬱陶しくなっていく・・・
(この問題の対処法は、アリエリーの新刊「幸せをつかむ戦略」を読め、と書いてあった)



20数年ぶりの愛車は、ありふれた車種で、色も愚直なシルバー。

毎朝ジョークを言いそうにないタイプだ。

もう4月半ばだというのに。

2020年4月11日

4月でも雪国


 ウチの玄関、まだ日陰に雪が残っている。

朝の気温は氷点下。ひと月前は、マイナス10度まで冷えた。東京では、とっくにサクラが散ったのに。

ダウンジャケットを着て、自宅からつづら折れの山道を、クルマで30分。町に下りると、小中高生が半袖で歩いている。

何だかんだ言って、日本は広いと思う。水平方向にも、垂直方向にも。



ひときわ冷え込んだ、ある夜。部屋の石油ヒーターが、ひと晩中唸りを上げていた。朝になって、突然、静かになった。

屋外の200リットル入り灯油タンクを見に行くと、カラに近い。室温が、どんどん下がっていく。

8キロ先のガソリンスタンドまで、灯油を買いに走る。新鮮な油をたっぷりヒーターに食べさせて、スイッチON

・・・つかない。

 中古の家を「居抜き」で買ったので、ヒーターも20数年前の年代もの。いつ壊れても、おかしくなさそう。

 急きょ、電器店やホームセンターを回った。店の人はみな「暖房器具? さあ・・・あるとしたら“季節もの処分コーナー”かな」と、つれない。案の定、軒並み売り切れている。

ネット通販は、届くまで数日かかる。しかも、わが家は標高1600メートル。高地仕様の特別なヒーターしか使えない。

 今夜をどうやって過ごそう。家族はとっても寒がりだ。困った。

ふと思いつき、湖畔の宿のオーナー、タマさんに電話した。清掃係やフロント係のバイトで、毎夏お世話になっている。

「ストーブですか? 何台でも貸しますよ! いま新型コロナのせいで、空室だらけなんで」

 まさに、捨てる神あれば拾う神あり。すぐ町を出て、山上の湖を目指す。タマさんが、大小の暖房器具を並べて待っていてくれた。

 大きな達磨ストーブを借りて自宅に運び入れ、点火。頼もしい炎が上がり、部屋がガンガン暖まっていく。

 翌日、ゆとりを取り戻して、業者にヒーターの修理を依頼した。最初の人は、しばらくいじって「私の手に負えません」。メーカーにも、部品の在庫がないという。ヒーターを新品に交換すれば、工事費込みで20万円。イタイ。

 2人目の業者さんは、「ちょっと待って」。ヒーターの裏に、おもむろに手を入れた。外部タンクにつながるパイプの、捻じれを直している。

そしてスイッチON

あっけなく再始動した。

思うに、このワイルドな地で暮らすには、自分にはDIYの知識がなさすぎる。

家の近くで

2020年4月4日

雑菌王


19の春に、インドを旅した。

 当時は、黄色い表紙のガイドブックが大人気。「11000円で世界を歩こう」と喧伝していた。

 それを真に受けて、安宿に泊まり、ゴミだらけの路地でカレーを食べた。見かけも味も泥みたいなカレーは、やたら辛かった。テーブルにあった水差しの水を、がぶ飲みした。着いたその日から、腹を壊した。

 長距離バスに乗り、休憩時間に停車すると、周囲は見渡す限りの大平原。公衆トイレはおろか、身を隠す場所さえない。旅行者仲間にもらった下痢止めを飲み、青い顔をして耐えた。

インドを去る日までのひと月、ずっと下痢が続いた。

帰国した成田空港の検疫所で、下痢を申告すると、インド帰りはすぐ検便を採られる。

翌日、白衣とマスクの男数人が、アパートに現れた。

「保健所の者です。赤痢菌が出ました。すぐ隔離します」

 連行される私を、家主のおばあちゃんが、呆気に取られて見ている。

 法定伝染病は、治療費がタダだ。3食昼寝付きの隔離病棟で2週間を過ごし、娑婆に出ることが出来た。

 21の春、今度はビルマ(当時の呼称)を旅した。ただでさえ暑いこの国が、ことさら暑くなるのが5月。行ってから気づいた。あまりにも暑くて、安食堂の水をがぶ飲みした。

 帰国後、どうも体がだるい。白眼が黄色くなってきた。そして尿が茶色に。

 病院で検査すると、肝機能の値が、正常な人の数十倍になっている。

「急性A型肝炎です」。即入院。そのまま、1か月以上を病院で過ごした。

赤痢でも肝炎でも、「西洋医学の殿堂」ともいうべき大学病院に入院したのに、治療らしい治療は何もなかった。

赤痢の時は毎朝、看護婦さん(当時の呼称)に言われるままにお尻を出して、赤痢菌をチェックされるだけ。肝炎の時も、「小柴胡湯」という漢方薬を処方されただけだった。結局、自らの免疫力だけが頼りなのだ。

社会人になり、仕事で途上国を渡り歩いた。インドにも、何度も行った。タイには3年住んだ。でも病気らしい病気はおろか、下痢もしない。

いつの間にか、雑菌にとても強くなっていた。

 個人的には、COVID-19にも100%勝つ自信がある。こうして防戦一方、家に籠ってほとぼりが冷めるのを待つ毎日が、何とも歯がゆい。

ちゃんと食べて、きちんと寝て体の抵抗力をつける。自分でも気づかないうちにCOVID-19に感染し、「ちょっと風邪ひいたかな」ぐらいの症状で治る。

そしていつの間にか、世界中の人に免疫ができていた・・・

 たとえ楽観的すぎると言われても、このシナリオ、本気で信じている。



肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...