「東京ドーム4個分」の巨大倉庫は、ありとあらゆる商品で溢れていた。
この前見かけたのは、「肥満ネコ用キャットフード・カロリー控えめ」。「ブランド牛のビーフジャーキー」も、よく見たらイヌのおやつだった。
離乳食やオムツをピッキングする時は、がんばるお母さんを想像する。でもそれ以上に目につくのが、ペットフードのまとめ買いだ。国内で飼われるイヌとネコの合計が、ヒトの子の数を上回ったというニュースに、妙に納得した。
ヒト向け食品では、スナック菓子やインスタントラーメン、炭酸飲料、酒類のまとめ買いが多い。ニッポン人の健康、大丈夫なの・・・?
スキャナーは、画面がとても小さい。目を凝らして読み取った次の商品が、
「エッセンシャル ふんわりうるツヤ髪 キューティクルエッセンス」
これは・・・何? 似たようなボトルやチューブが、棚に並んでいる。手あたり次第にスキャナーを当てたら、警告ブザーが響き渡った。ドタバタしていると、赤いベストの“リーダー”が、音もなく近づいてきた。
「朝礼で言った『目標』覚えてますか?そう、95でしたね。あなたの実績は、先月が1時間当たり平均50、直近で70台。ミスも1件ありました。もう少し、生産性を気にして下さい」
自分のとろさを感じてはいたが、この数字は想定外。
私は、肥満ネコ用キャットフードを探してオロオロ歩く「ドジでのろまな亀」だ(ここでスッチー姿の堀ちえみを連想した人は、間違いなく私と同世代です)
赤ベストのリーダーは、アマゾンの社員ではない。労働者の募集と管理を一手に請け負う、W社の人だ。5500人が働くクリスマス商戦の倉庫内で、アマゾンの社員を見つけるのは、サバンナでライオンを探すより難しい。
「余計な感慨を抱かず、ロボットのように働け」。アマゾンの意向を忖度した請負業者に、尻を叩かれる。この構図は、そこはかとなく、もの悲しい。
出勤してから帰るまで、機械に身分証を4回かざし、静脈認証を2回受け、出欠簿3か所に記入し、最後にX線探知機をくぐって所持品検査を受ける。勤務中は、常に「生産性」と「ミス率」を監視される。私語は禁止。
市内で日本語教室を主宰しているTさんに聞くと、アマゾンへ働きに行った外国人は、全員が数日で辞めて帰ってきたという。この感覚こそ、世界標準のように思える。
倉庫に設備投資するより、日本人が持つち密さや勤勉さ、「働くことは、耐え忍ぶこと」という独特の労働観を利用した方が、安上がり。
アマゾン・ジャパンは、たぶん、そう考えている。
70歳近い背中が曲がった女性が、自分の体重ほどあるカートを、懸命に引っ張っている。スキャナーの小さな画面に、ガムテープで拡大鏡をくくりつけて。毎回、休み時間が終わると、真っ先に休憩室を飛び出していく。
ベゾスCEOは、こういう人が会社を支えていることを、忘れないで欲しい。
Tateshina, Japan Autumn 2019 |
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