アマゾンの物流倉庫で、「ピッキング」という仕事をした。
棚の商品を「ピッ」とスキャンして、カートに乗せて運ぶだけ。
求人広告には、そう書いてある。
誰でもできる仕事かと思ったら、やってみると甘くない。
まず、倉庫が尋常でなく広い。床面積が、東京ドーム4個分。約1万点の商品を納めた高さ2.6メートルの棚が、見渡す限り並んでいる。
研修が終わった後、帰ろうとして迷子になり、出口まで15分かかった。
それぞれの棚は、アルファベットと数字で分けられている。でもなぜか、Tの隣がWだったり、60番台からいきなり100番台に飛んだりする。フォークリフトが動き出して、さっきまで歩けた通路が突然、通行止めになったりもする。
ピッキング中、近くの人に「Uの棚はどこですか?」と聞いたとたん、
「話しかけないで下さい!」
私語は厳禁、道を聞くのもダメらしい。
私の担当は、日用雑貨と食品の倉庫だ。大人の身長ほどの高さがあるカートを引っ張って、コメ5キロ、ビール半ダース、ネコ用トイレの砂ひと袋等々、顧客が注文した品をどんどん積んでいく。
働き始めの数日、初心者を示す黄色いタスキを体に巻いた。同じく黄色いベストを着た“トレーナー”が、私の後をついて歩いた。
「いま遠回りしましたね。早く棚の位置を覚えて下さい」「あ~その柿ピー、3個セットなのに1個しかピックしてませんよ」「作業が遅いです~」
口元は笑っているが、目が笑ってない。
バーコードを読み取るためのスキャナーは、私が1時間当たり何個の商品をピックしたかも、常に計測している。
そして全員の「生産性」と「ミス率」が、倉庫の壁に張り出されるのだ。
でも、ものは考えよう。
毎朝ジョギングしても1円ももらえない。こうしてアマゾンで働けば、いい運動になる上に、お金までもらえる。
毎日人と接していれば、心が疲れる時もある。ここに来れば、高さ2.6メートルの棚に身を隠して、誰とも話さずにいられる。
ピッキングで商品を集めていくと、カートの重さは30キロを超えてくる。1日働けば、総歩行距離は20キロ。スポ根ドラマのヒーロー気分になれる。
この仕事、天職かも。
そのうち、GAFAの一角で働いた実績を買われて、シリコンバレーのスタートアップから転職のオファーが・・・
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