2019年12月13日

ピッキングは天職


 アマゾンの物流倉庫で、「ピッキング」という仕事をした。

 棚の商品を「ピッ」とスキャンして、カートに乗せて運ぶだけ。

 求人広告には、そう書いてある。

誰でもできる仕事かと思ったら、やってみると甘くない。

 まず、倉庫が尋常でなく広い。床面積が、東京ドーム4個分。約1万点の商品を納めた高さ2.6メートルの棚が、見渡す限り並んでいる。

 研修が終わった後、帰ろうとして迷子になり、出口まで15分かかった。

それぞれの棚は、アルファベットと数字で分けられている。でもなぜか、Tの隣がWだったり、60番台からいきなり100番台に飛んだりする。フォークリフトが動き出して、さっきまで歩けた通路が突然、通行止めになったりもする。

ピッキング中、近くの人に「Uの棚はどこですか?」と聞いたとたん、

「話しかけないで下さい!」

赤いベストの“リーダー”が飛んできた。

私語は厳禁、道を聞くのもダメらしい。

 私の担当は、日用雑貨と食品の倉庫だ。大人の身長ほどの高さがあるカートを引っ張って、コメ5キロ、ビール半ダース、ネコ用トイレの砂ひと袋等々、顧客が注文した品をどんどん積んでいく。

 働き始めの数日、初心者を示す黄色いタスキを体に巻いた。同じく黄色いベストを着た“トレーナー”が、私の後をついて歩いた。

「いま遠回りしましたね。早く棚の位置を覚えて下さい」「あ~その柿ピー、3個セットなのに1個しかピックしてませんよ」「作業が遅いです~」

 口元は笑っているが、目が笑ってない。

 バーコードを読み取るためのスキャナーは、私が1時間当たり何個の商品をピックしたかも、常に計測している。

そして全員の「生産性」と「ミス率」が、倉庫の壁に張り出されるのだ。


でも、ものは考えよう。

 毎朝ジョギングしても1円ももらえない。こうしてアマゾンで働けば、いい運動になる上に、お金までもらえる。

 毎日人と接していれば、心が疲れる時もある。ここに来れば、高さ2.6メートルの棚に身を隠して、誰とも話さずにいられる。

 ピッキングで商品を集めていくと、カートの重さは30キロを超えてくる。1日働けば、総歩行距離は20キロ。スポ根ドラマのヒーロー気分になれる。

 この仕事、天職かも。

そのうち、GAFAの一角で働いた実績を買われて、シリコンバレーのスタートアップから転職のオファーが・・・

来るわけないか。



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