わが家の近くに、アマゾンの巨大な物流倉庫がある。
「外国人の友だちがアルバイトに行って、激ヤセした」「勤務中の突然死があったらしい」。地元の人から聞くアマゾンの評判は、よくない。世界各地のアマゾンでも、待遇改善を求めるデモが行われている。
ずっと専業主婦だった近所のAさんが、アマゾンで働き始めた。いわく、
「こんなにラクな仕事でお金を頂いて、いいのかしら・・・」
ブラック企業か、それとも楽園か。倉庫は、ウチから自転車で10分だ。
楽園の可能性に賭けて、私も働いてみよう。
アマゾンの求人は、アルバイト情報サイトで簡単に見つかった。応募はメールでOK。履歴書さえ必要ない。
面接は、駅近くの多目的スペースで行われた。審査の類はなく、簡単な説明を受け、ID用の顔写真を撮っておしまい。
期待した時給は、県が定める最低賃金+9円。意外にショボい。週に数十時間も働いたり、夜勤をすると、時給アップがある。
勤務初日、いよいよアマゾンの敷地に入る。広い芝生で、ルンバの親分みたいな無人芝刈り機が、黙々と動いている。
社員食堂の一角を借りて、研修が行われた。
のっけから禁止事項。「フードのついた上着はダメ」「ケータイ、スマホは持ち込み禁止。違反すれば解雇もありうる」「ここで見聞きしたことをSNSに流して、それが個人情報と判断されれば、賠償金は4000万円に及ぶことも」。
ランチタイムになると、社食には1000人以上が押し寄せて、芋を洗うがごとし。クリスマス商戦のいま、倉庫内で5500人が働いているという。
外では無人芝刈り機、内では人海戦術。
380円のハンバーグ定食が、けっこういけた。
食堂のはす向かいに、壁が黒く塗られた喫煙部屋があった。小さな窓から差し込む光の中で、鈴なりの人がうごめき、煙が充満している。ナチスの「ガス室」を想起させる、ショッキングな光景。
廊下に、ジェフ・ベゾスCEOの写真が30枚も並んでいる。従業員向けメッセージが貼ってあったが、出来の悪いAIに翻訳させたような日本語で、意味不明。太字部分の「善意よりメカニズム」とだけ、読めた。
研修を終えると、倉庫の出口では、身体検査が待っていた。ベルトを外し、ポケットの中身をすべてトレーに空けて、金属探知機のゲートをくぐる。
「そのハンカチ、広げて見せて下さい」。米国の空港並みの厳重さだ。
誰でも受け入れるが、誰も信用しない。そんなメッセージを感じた。
久々にシャバに出て、スマホに数時間前の着信履歴を発見。「返事が遅れました、今までアマゾンにいました」と知人に送ったら、すかさずレスが来た。
「今度は南米に行ってるんですね!」
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