2018年11月2日

蒸留された情報


 新聞記者だった先輩が、退職と同時にテレビを捨てた。

 会社にいる時はもちろん、休日も家のテレビをつけっ放しにしてニュースを追い、緊急速報のチャイムに身構える。そんなことを何年も続けていると、確実に心が摩耗する。

 仕事上の必要がなくなってしまえば、ニュースがなくても困らないことに、私も気づいた。

 そして、投資家にとっての経済ニュースも、ただ気ぜわしいだけだ。経済専門チャンネル(CNBC、ブルームバーグなど)をつけっ放しにしている人は、ちょっとカッコいいが、有益とは限らない。


「まぐれ」(Fooled by Randomness)の著者ナシーム・N・タレブは、オプション取引のトレーダーにして大学教授。彼もマスコミに対して辛辣だ。


「マスコミは私たちが出くわす最大の害悪」「世界はどんどん複雑になり、一方私たちはどんどん単純化されたものにばかり接するようになる」

「マスコミと歴史の違い=ノイズと情報の違い」

「マスコミでありながら有能な人間であるためには、物事を歴史家のような視点で見て、自分が提供する情報の価値を割り引いて考えなければならない」

「新しい考え方よりも蒸留された考えにこそ価値がある」

「疑わしい時はシステマチックに新しいアイデアを否定するのが一番いいやり方だ。明らかに、そして驚くべきことに、常にそうなのだ」

「情報の問題点は、気が散るところや一般的には役に立たないところではない。有毒なところだ」

「不確実性の下で意思決定を行う時には、マスコミには可能な限り接しない方針を持つのが正しいはず」

「マスコミにとって、黙るぐらいならそれこそ何でもいいからしゃべった方がましなのである」

「蒸留されていない情報の蒸留された情報に対する比率が上がり、市場は前者で溢れかえっている。昔の人の戒めなんか、緊急ニュースで届いたりしない」



 最近起きたマーケットの変動を、マスコミは米中貿易戦争」結びつけたが、本当だろうか。

 市場でつけられたものの値段が、その本質的な価値より高くなりすぎれば、いつか必ず元に戻る。その逆もまた真なり。今回も、それだけの話だと思う。



「やっぱり詩でも読んでいる方がいい。何か本当に重要な事件が起きたなら、どのみち私の耳までたどり着くだろう」

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