今日も、Kちゃんとデートした。
一時預かり施設からママが働く病院まで、30分の夕暮れドライブ。
何度も同じ道をデートしているが、彼女はいつだって奔放だ。
車検証やバッグの書類など、手が届く限りの紙を丸めて、そこら中に投げる(・・・しわを伸ばせばまた読めるし。節分みたいで楽しいね)。
ボールペンやCDを、窓から車外に投げる(あああ。ま、拾いに行けばいいや)。
走っている最中に、助手席から手を伸ばしてギアをニュートラルにしたり、ハンドブレーキを引いたり(クルマがどうやったら止まるか、小さいのによ~く理解してるね)。
渋滞がちな道中、どうしたらKちゃんがよりハッピーになり、私も前方不注意にならずに済むか。あまりしゃべらない彼女の胸中を、推し量ってみる。
絵は好きなのかな。子ども扱いを嫌う彼女に、ホワイトボードと4色ペンをそっと手渡した。
無心に絵を描いている。珍しく、車内に静かな時間が訪れた。
ところがある日、彼女がムキになって、ボードにタテ線を書き殴っている。
「Kちゃん・・・それ、なんの絵?」
「雨。」
(Kちゃんの今の心境は、土砂降り?)
そしてボードが青一色に塗りつぶされると、今度は私の腕に描き始めた。顔色ひとつ変えずに。
(うわあああ、買ったばっかりのシャツが・・・いや待てどうせユニ〇ロだ)
毎回、度量を試される。落ち着け、自分。運転に集中しろ。
今日はどんな展開が待っているか、楽しみに行けばKちゃん爆睡中。先生に抱っこされて車に運ばれ、院内保育所に着いても起きない。寝たまま抱っこで保育士さんに手渡す。天使のような寝顔が、みんなを笑顔にした。
一度だけ、彼女にお返ししたことがある。
その日も橋の手前で渋滞が始まり、Kちゃんが退屈し始めた。モゾモゾ、足元の赤いリュックを開けようとしている。
「!」
小さな背中を見ていて、ピンときた。とっさに運転席側のスイッチで、全ての窓を閉めた。
次の瞬間。Kちゃんが振り向きざま、食器袋を窓に向かって投げつけた。ガチャーーン!間一髪、閉まった窓ガラスに当たって跳ね返り、戻ってきた。
「やった!」大喜びするおじさんの隣で、憮然とするKちゃん。
NPO活動で障がいのある高齢者と接していると、人生終盤の厳しい現実を見ることがある。Kちゃん自身がどう思っているか知らないが、彼女と過ごす30分が、間違いなく心の救いになっている。
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