「会社やめて、毎日なにしとんのや」
「いや・・・その・・・個人投資家として・・・」
「なにい個人投資家だ? なんじゃそりゃあ! うさん臭いのう!!」
大学山岳部の会合で、数年ぶりに会った先輩に笑い飛ばされた。
後輩の一部から「うらやましい」という声も聞こえたが、とても本気で言っているとは思えない・・・
今から25年前、まだ20代だった彼ら山岳部の仲間とヒマラヤの未踏峰に挑んだ。8000メートル近い高さの山に登るには、優に2か月はかかる。ふつうは会社を辞める覚悟が必要だ。
ところが、当時新聞社に入って5年目の私は「出張扱い」にしてもらった。夕刊特集面を作ることを条件に、「会社のお金で」好きな山登りができた。帰国後には、骨休め休暇までもらってしまった。
学校を出てからもヒマラヤ登山を続けるには、どうしたらいいか。ひと昔前は、学校の先生になるのが正解だった。毎年、夏にひと月も休めたから。
学校が次第にブラック職場化してくると、今度はマスコミに人気が移った。私や山岳部の後輩は、軒並み新聞社やテレビ局に就職している。
会社側にとっても、山岳部出身者は「真冬に夜中まで張り込みさせても文句を言わない」便利な人材だったと思う。双方の利害が見事に一致していた。
マスコミに入った後輩たちは、それぞれ会社の経費で北極に行ったり、南極で越冬したり、エベレストに登頂したり。役得をフルに行使した。登頂25周年を祝う会で、久しぶりに会った彼ら。歳も50前後となり、現場は若手記者に譲って、もっぱら社内でデスクワークに勤しむ毎日だ。
テレビに行った連中は元気がいい。いつの間にか、酒にも強くなっている。某局で部長職を務める後輩にごちそうになった時、会計で領収書を作りながら彼が豪語する。
「オレが使える交際費には上限がないんっすよ」
史実を基にした映画「ペンタゴン・ペーパーズ」では、メリル・ストリープやトム・ハンクス扮する新聞人たちが輝いている。政権の圧力に抗して、歴代大統領のウソを暴いていく。それがベトナム戦争の終結につながった。
いつだって、歴史を作るのは新聞だ。
それなのに、なぜ新聞ばかりが没落する?
世の中、なにか間違っている。
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