2018年7月28日

いいね!を伝える



 新聞に何度も名前が出るのに、有名になれない人もいる。

 さて誰でしょう?

 答えは、新聞記者。

 私も100回以上は名前が載ったはずだが・・・ほぼ既読スルー(涙)



Y新聞に掲載される主な写真には、撮影者名がつく。我ながらヘタクソな写真にも、会社の決まりで名前が出てしまう。

翌朝自宅に届いた新聞を見て、あちゃー、と頭を抱えたこと数知れず。



 たまにうまくいったかな、という時がある。

 署名記事(写真)が掲載される。

 でも、読者の反応はない。気持ちいいほどない。

 世界最大の発行部数を誇り、1000万人に読まれているはずなのに。



 ある時は、新聞1ページを丸ごと使わせてもらった。あちこち出張して、渾身の(でもないか)記事と写真を世に問うた。

掲載されてから、1日、2日、3日・・・

何の反響もなかった。

新聞を読んで「へえ」とか「ほう」と思っても、それで電話をかけたり、メールやはがきを出す人はまずいない。一読者になった今ならわかる。

でも自分の仕事への反応が全くなく、それが何度も続くと、かなり凹む。



「いいね!」と思ったら、それを相手に伝えよう。

フリーになった時に思った。そして、やってみた。

 道の駅で売られていた、地元女性のクッキーがおいしかった時。

 市民合唱団のコンサートに行って、その歌声に心が洗われた時。

 読みたかった本の日本語訳が出て、それが流れるような訳文だった時。 

よかったです、とメールやはがきで送ったら、7割ぐらい返事がきた。
「涙が出ました」と書かれていたものもあれば、「人生の指針となる言葉を頂きました」とまで書かれていたことも。

 自分の仕事を評価されるのは、やはりとっても嬉しいことなのだ。

 ほめられれば嬉しいし、ほめた側もハッピーになる。



 心理学の実証実験では、人が幸せを感じた時、ハッピーな気持ちはその人の知り合いの知り合いの、そのまた知り合いまで伝染するという。

知らない誰かに「いいね!」を伝える。

とても簡単で、その波紋は想像以上かも知れない。

Saigon, Vietnam



2018年7月21日

林住期


 古代インド人は、人生を4つに分けて考えたという。



 学生期・・・学び、備える時期

 家住期・・・家庭を築き、仕事に励む時期

 林住期・・・森に庵を構えて、瞑想する時期

 遊行期・・・家を出て、思うままに遊行する時期



 それぞれに25年を充て、最後の遊行期で死を待ったらしい。

 もし、この「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」を、1年で回したらどうなるだろう。

 充実した日々を送れそう。

そう思って、実は3年前から実験を始めた。

 春と秋は関東で学生期&家住期。冬は東南アジアで遊行期。




 そして、夏は林住期。

 関東のはずれに借りたマンションから、森のボロ山荘に引っ越す。

 期間限定の、にわか信州人だ。



 猛暑の関東から100数十キロ。深山の朝は冷える。

だるまストーブに火を入れる。

 野生のシカが庭を横切る。後には盛大なシカのフン。

 樹間に陽が差しこむ頃に、クルマで出勤。

通勤路は、1800メートルの峠を越える雲上のドライブだ。

片道16キロの間に、信号はひとつだけ。目の前をキツネが横切る。

着いた先は、避暑客でにぎわう湖畔の宿。

客室係として、淡い青空を見上げながら布団を干す。

去年の夏、宿のオーナー夫妻に女の子が誕生した。

その子Yuraちゃんが、洗濯物の上に乗せられて廊下を行進する。

午後に帰宅し、バルコニーでボーッとする。

やがて日が暮れ、褐色の物体が、畳の上をザザザッと走って風呂場に消えた。

ヤマネ? ただのネズミ? 正体はわからない。

 3度の食事は、地元の農家から買う高原野菜が中心。

夜、外でホタルが青白い光を明滅させている。

この3年で初めて、蚊に刺された。

この高度まで蚊が上がってきたのは、地球温暖化のせい?



テレビはなく、インターネットもつながりにくい。

ここにいると、正気に戻れる気がする。やっぱり現代は、余計な情報が多すぎる。

でもまだ、古代インド人みたいに瞑想はできていない。


2018年7月14日

2歳児の時間 80歳児の時間



 自転車で駅に急ぐお母さんから、ゆづ君(2歳)を受け取る。

得意のランダムウォークは、今日も絶好調。路上のアリや石ころを探して、あさっての方向に歩いていく。その小さな背中を追いかける。

 お母さんを乗せた上り新幹線が、スピードを上げて高架橋を走り去る。

通勤電車も何本か通り過ぎた。

ゆづ君の周りだけ、ゆったりした時間が流れている。



ふと振り向いて、純粋無垢な瞳をまっすぐ私に向けた。いやな予感。

「・・・抱っこ」

うそー! ここからキミの保育園までですか? 朝から夏日なのに?

高温を発する10キロの負荷を課されて、涙目で園にたどり着く。いつもの若い保母さんが、満面の笑顔で迎えてくれた。

女性の優しさもひとつの作戦と心得ているが、子どもに向けるその笑顔には一点の曇りもない。尊い母性のおこぼれに預かる。


NPOの福祉車に乗り換えて、ゆづ君とは年の差80歳のノダさん宅へ。アパートのドアをノックすると、ステテコ姿のノダさんが顔を出した。

「だれ?・・・今日は病院の日か・・・でもまだ朝早いだろ・・・おーもうそんな時間・・・支度するから待ってて」

 ノダさんは一日中、雨戸を開けない。タバコを友に、暗闇で暮らしている。

 いつも水曜日の9時20分に訪ねているのに、行くたびにポカンとした顔をされる。



 何度も送迎するうち、山陰の小さな島で生まれたノダさんの半生は、だいたい暗記してしまった。車内ではお互い、話したい時だけ話す。

「ケアマネさんが聞けっていうから聞きますけど、今朝ちゃんと薬飲みましたか?」

「いや飲んでない。起きるとボーっとして、つい忘れちゃう。ケアマネが毎日、頼みもしないのにヘルパーを寄こすの、ありゃオレが孤独死してないか見張ってるな」

病院で受ける血小板輸血も、どうでもいいと思っている節がある。

彼が薬を飲まないのは、たぶん確信犯だ。

でも人生はそれぞれ。

薬を飲んだかどうか、他人が気にする必要はないように思う。



 2歳児も80歳児も、ほんとうに自由だ。

 自分の時間を生きている。

 その時間に対する柔軟さ、ぜひ見習いたい。

Saigon, Vietnam 2018

2018年7月7日

ビリギャル



「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」

塾講師の坪田信貴が書き下ろした実話。有村架純主演で映画化もされている。遅ればせながら、図書館で借りて読んだ。

正直いって、本や映画になるほどのテーマかなと思う。大学世界ランキングでは東大でさえ、いまやシンガポール大や北京大より格下だ。日本を一歩出れば、誰も知らないKEIO大学。

 さらに日経電子版によると、関西の高校3年生の40%が慶応を知らないそうだ。私学の雄といわれる慶応も、しょせんは東京ローカル。

それとも、関西の高校生がモノを知らなすぎるのか?

 いろいろと突っ込みながら読んだが、実はとても心動かされる本だった。



 高2当時のさやかちゃんは、金髪ヘソ出しのギャル。聖徳太子を「せいとくたこ」と読んで、「この女の子、超かわいそうじゃね?」と勘違い。日本地図を書かせれば、ひとつの大きな円を描く。東西南北さえわからない。

 そして「カリスマ塾講師」坪田先生と出会う。「君みたいな子が慶應とか行ったら、チョー面白くない?」と言われ、すっかりその気になって猛勉強を始める。

素直であることは、とても大切な人生の資質だ。

 坪田先生に会ったさやかちゃんは、初めて「勉強してものを知るとこういう大人になれるのか。こういうおもしろい話ができるようになれるのか。じゃあ勉強をがんばろう」と思えたのだという。

 さやか母もすごい。学校に呼び出されて「お宅の娘さんは授業をまったく聞かず、熟睡しています」と言われ、こう答えた。

「塾で何時間も勉強し、家でも朝までずっと寝ずに勉強しています。あの子はいつ寝ればいいんですか?」「あの子には、学校しか寝る場所がないんです」

3時間粘って、娘が授業中に寝ることを認めさせてしまう。

マイ枕持参で登校するさやかちゃん。ある日ふと目覚めると、授業が簡単に感じられるようになっていた。1年半の間に、偏差値は30(大学受験生の下位2%)から70(上位2%)へ。全国の受験生67万人をごぼう抜きにしていた。

そして、「このまま大学にも上がれなくて、適当にバイトでもして、結婚して、早めに子育てするんだろうなー」と考えていたビリギャルは、慶応に合格した。

難関大に合格して得た自信。大学生活で出会った人との交流。そして「慶大卒」という肩書。なんだかんだ言っても「慶応」は、さやかちゃんの人生の選択肢を劇的に増やしたに違いない。努力して何かを掴んだ経験は、一生の財産だ。

そして・・・自分の日本史の学力も、聖徳太子を「せいとくたこ」と読んだ頃のさやかちゃんといい勝負。この夏は、坪田先生が彼女に勧めた「小学館・学習まんが少年少女日本の歴史」全23巻で勉強しようと思う。

Dalat, Vietnam




肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...