自転車で駅に急ぐお母さんから、ゆづ君(2歳)を受け取る。
得意のランダムウォークは、今日も絶好調。路上のアリや石ころを探して、あさっての方向に歩いていく。その小さな背中を追いかける。
お母さんを乗せた上り新幹線が、スピードを上げて高架橋を走り去る。
通勤電車も何本か通り過ぎた。
ゆづ君の周りだけ、ゆったりした時間が流れている。
ふと振り向いて、純粋無垢な瞳をまっすぐ私に向けた。いやな予感。
「・・・抱っこ」
うそー! ここからキミの保育園までですか? 朝から夏日なのに?
高温を発する10キロの負荷を課されて、涙目で園にたどり着く。いつもの若い保母さんが、満面の笑顔で迎えてくれた。
女性の優しさもひとつの作戦と心得ているが、子どもに向けるその笑顔には一点の曇りもない。尊い母性のおこぼれに預かる。
NPOの福祉車に乗り換えて、ゆづ君とは年の差80歳のノダさん宅へ。アパートのドアをノックすると、ステテコ姿のノダさんが顔を出した。
「だれ?・・・今日は病院の日か・・・でもまだ朝早いだろ・・・おーもうそんな時間・・・支度するから待ってて」
ノダさんは一日中、雨戸を開けない。タバコを友に、暗闇で暮らしている。
いつも水曜日の9時20分に訪ねているのに、行くたびにポカンとした顔をされる。
何度も送迎するうち、山陰の小さな島で生まれたノダさんの半生は、だいたい暗記してしまった。車内ではお互い、話したい時だけ話す。
「ケアマネさんが聞けっていうから聞きますけど、今朝ちゃんと薬飲みましたか?」
「いや飲んでない。起きるとボーっとして、つい忘れちゃう。ケアマネが毎日、頼みもしないのにヘルパーを寄こすの、ありゃオレが孤独死してないか見張ってるな」
病院で受ける血小板輸血も、どうでもいいと思っている節がある。
彼が薬を飲まないのは、たぶん確信犯だ。
でも人生はそれぞれ。
薬を飲んだかどうか、他人が気にする必要はないように思う。
2歳児も80歳児も、ほんとうに自由だ。
自分の時間を生きている。
その時間に対する柔軟さ、ぜひ見習いたい。
Saigon, Vietnam 2018 |
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