2018年6月23日

世界の大家さん



 ちょうど30歳のとき、阪神大震災が起きた。

 取材で神戸市内の私鉄駅に降り立つと、全てが斜めだった。

 駅前広場に面したビル、マンション、民家や電柱が、軒並み大きく傾いている。一見無事に見える建物も、よく見るとわずかに傾いている。

 地面から直角に立つものが何もない世界は、とても不安な気持ちにさせた。

 この時、「家を買うのだけはやめよう」と思った。



 その後も仕事で、新潟県中部地震、スマトラ沖地震、パキスタン北部地震、中国・四川省大地震、東日本大震災の現場を歩いた。あらゆるものを根こそぎにする、津波の威力を目の当たりにした。

「家を買うのだけはやめよう」との思いの強さは、いまや鉄壁だ。



 報道カメラマンとして似たような風景を見ているはずの同僚は、意外にもマイホーム派が多かった。結婚して、当たり前のように家を買う。

 勇気あるよなあ。



 江戸の町民は、もっぱら長屋などの借家暮らしだった。木と紙でできた日本家屋は、すぐ倒れたり燃えたりする。買うより借りた方が合理的だ。

 自分は江戸時代のメンタリティから脱していない。



 ずっとマイホームとは無縁の暮らしだが、REITは持っている。

REITは、ショッピングモールやオフィスビル、マンションなどの不動産を小口に切り分けて証券化したものだ。ネット証券で簡単に買える。



 私が持っているREITは、アメリカ、カナダ、ドイツ、イタリア、フランス、オランダ、スペイン、ベルギー、アイルランド、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポール、イスラエルなど海外の不動産。



 数年前に新興国REITも買ったので、メキシコ、ギリシャ、トルコ、ポーランド、マレーシア、タイ、台湾、南アフリカの不動産だって持っている。



 しがない借家暮らしの仮面を被った、実は世界の大家さん。

Saigon 2018


 しょせん私の資金力では、「アメリカの高級コンドミニアムのキッチン床タイル3枚分」とか「南アフリカのスーパーマーケットの男子トイレ個室1個分」しか買えていないと思う。

 でも毎年数パーセントの配当がもらえるし、壮大な空想ができて気持ちいい。


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