ミホちゃんを迎えに、障害児の預かり施設へ。
ファミリーサポートで、ママが働く病院まで送り届ける日だ。
今日の彼女はご機嫌ななめ。先生に靴を履くよう促されて、いつまでもグズグズしている。
施設を出たとたん、背負っていた赤いリュックを投げ捨てた。駐車場とは反対の方に、猛然と歩いていく。リュックを拾って後を追った。
おぼつかない足取りながら、踏切を越えて、田んぼの中の一本道をずんずん進む。名を呼んでも振り向きもしない。
ミホちゃんを病院に送ってから、デイサービスのお年寄りを送迎する仕事が入っていた。出社時間が迫る。
「ミホちゃん・・・もう帰ろうよ」 「やだ!」
NOという時のミホちゃんは、NONという時のフランス人並みに毅然としている。拒絶の意志を言葉だけでなく、小さな体全体で表現する。
手を引くと、その場に座り込んでしまった。引きずられても、がんとして動かない。
仕方なく抱き上げて、全身全霊で泣き叫ぶミホちゃんをクルマまで運んだ。
嫌がる幼女を連れ去る怪しい中年男の図。
昼寝が足りない日のミホちゃんは、たいてい不機嫌だ。お絵描きのための色鉛筆を、車内にばらまく。車検証や保険証を見つけ、クシャクシャに丸めて投げる。
今日は輪をかけてすごかった。窓を開けて、ボールペンその他、目につくものを車外に投げ捨てている。
ミホちゃん今日はごめん。なんとか機嫌を直してもらおうと、彼女が好きな歌のCDをかけた。すると、すかさず横から手を伸ばして最大音量にした。
まるでカーステレオを大音響で鳴らして走る暴走族だ。でもかかる曲は、「となりのトトロ」や「アンパンマン」。
隣の車の女性がギョッとしていた。
大学で児童心理、発達心理を学んだ妻にミホちゃんのことを話したら、「もしかしたら施設の先生が厳しくて、帰りに発散したいのでは?」という。
なるほどそういう目で見ると、行動の辻褄が合う。
そして「この際、ミホちゃんにとことんつき合ってくれば?」と。
数日後。ミホちゃん以外の予定はすべて白紙にして、万全の態勢で施設へ。今日は地の果てまでも、散歩につき合うぞ。
あれ? こういう日に限って、脇目も降らずに助手席に乗り込んだ。
施設で水遊びをしたらしく、濡れたままの水着や水泳帽、タオルをビニールから取り出すと、得意げな顔で、運転する私の足に並べ始めた。
私の足は物干しざおか? 水がパンツまで沁みてきた。20キロを抱っこした背中も痛む。
でも彼女の寝顔を見ていると、本当に心が洗われる。
魂が、浄化されていく。
魂が、浄化されていく。