サンタに扮装して、子どもの家にプレゼントを配る。
クリスマスイヴに、想像しただけでワクワクすることをしてきた。
サンタ役はヨンタさん。フルタイムで働く会社員は仮の姿だ。
そして私はトナカイ。ただ後ろで立っているだけ、のお気楽ポジションだ。
いくぶん寒さが和らいだ今年のイヴ。まず住宅街の小さな教会でミサを受ける。海沿いに寺が密集するこの辺には珍しい、ギリシャ正教の教会だ。
ローソクのほのかな灯りに、十字架とイコンが浮かび上がる。おめかしして集まった子どもたちが、司祭の言葉に耳を傾ける。
すぐ外の路上で、ホームレス男性が寒そうに縮こまって寝ている。
ミサが終わり、駐車場の暗がりでサンタとトナカイに変身する。ゴソゴソ着替えているのを見て、道行くカップルが笑う。
そして、ヨンタさんの黄色いフランス車で夜の街へ。
去年のイヴも、このコンビでプレゼントを配った。サンタは日本語を話せないので、と無言で玄関先に立った。すると子どもはすっかりおびえて、固まってしまった。今回は、少し声を掛けることにした。
そして夢を壊さないよう、我々はサンタ業務を代行するサンタの弟、という設定に。
だから、ヨンタさん。
まず一軒め。チャイムを鳴らしても反応がない。かなりたってドアが開く。
現れた5歳の女の子は、寝入りばなをお母さんに起こされ、無理やり引きずってこられた様子がありあり。サンタなんかどーでもいい、という顔をしている。
教会に寄ったせいで、訪問が遅くなってしまった。
こりゃいかん、と道を急ぐ。お母さんたちはケータイで「ヨンタさん遅れてるね」「うちの子起きてられるかな」「今、我が家に来てくれたよ~」と情報交換している。
幸いいくつかの家庭で、飛び切りの笑顔を見ることができた。
あらかじめお母さんに、プレゼントを玄関先に出してもらっている。私たちはただ渡すだけなので、自分の懐が痛むことはない。
だから、いちばん楽しんだのはヨンタとトナカイだ。
「ヨンタさんのお髭にヒモがついてた」「トナカイがなんで車に乗るの?」子どもたちの鋭い指摘があった、と後で聞いた。
「トナカイはね、まだ見習いだからよ」お母さんに苦しい釈明をさせてしまう。
最後の一軒はよく知っている家族。つい口が滑った。
「スズちゃん、プレゼントもらえてよかったね」
「・・・なんでトナカイが私の名前知ってるの?」