2017年12月30日

サンタの弟


サンタに扮装して、子どもの家にプレゼントを配る。

 クリスマスイヴに、想像しただけでワクワクすることをしてきた。



 サンタ役はヨンタさん。フルタイムで働く会社員は仮の姿だ。

 そして私はトナカイ。ただ後ろで立っているだけ、のお気楽ポジションだ。



 いくぶん寒さが和らいだ今年のイヴ。まず住宅街の小さな教会でミサを受ける。海沿いに寺が密集するこの辺には珍しい、ギリシャ正教の教会だ。

ローソクのほのかな灯りに、十字架とイコンが浮かび上がる。おめかしして集まった子どもたちが、司祭の言葉に耳を傾ける。

すぐ外の路上で、ホームレス男性が寒そうに縮こまって寝ている。

ミサが終わり、駐車場の暗がりでサンタとトナカイに変身する。ゴソゴソ着替えているのを見て、道行くカップルが笑う。

そして、ヨンタさんの黄色いフランス車で夜の街へ。



去年のイヴも、このコンビでプレゼントを配った。サンタは日本語を話せないので、と無言で玄関先に立った。すると子どもはすっかりおびえて、固まってしまった。今回は、少し声を掛けることにした。

そして夢を壊さないよう、我々はサンタ業務を代行するサンタの弟、という設定に。

だから、ヨンタさん。

まず一軒め。チャイムを鳴らしても反応がない。かなりたってドアが開く。

現れた5歳の女の子は、寝入りばなをお母さんに起こされ、無理やり引きずってこられた様子がありあり。サンタなんかどーでもいい、という顔をしている。

教会に寄ったせいで、訪問が遅くなってしまった。

こりゃいかん、と道を急ぐ。お母さんたちはケータイで「ヨンタさん遅れてるね」「うちの子起きてられるかな」「今、我が家に来てくれたよ~」と情報交換している。

幸いいくつかの家庭で、飛び切りの笑顔を見ることができた。

あらかじめお母さんに、プレゼントを玄関先に出してもらっている。私たちはただ渡すだけなので、自分の懐が痛むことはない。

だから、いちばん楽しんだのはヨンタとトナカイだ。

「ヨンタさんのお髭にヒモがついてた」「トナカイがなんで車に乗るの?」子どもたちの鋭い指摘があった、と後で聞いた。

「トナカイはね、まだ見習いだからよ」お母さんに苦しい釈明をさせてしまう。

最後の一軒はよく知っている家族。つい口が滑った。

「スズちゃん、プレゼントもらえてよかったね」

「・・・なんでトナカイが私の名前知ってるの?」


2017年12月23日

クマ出没注意!


「私の投信がひどいことに・・・ちょっと見て頂けますか?」

 共働きの友人、Tさんの悲鳴が聞こえた。

 世界の株式市場が好調で、投資家の多くは笑顔なはず。不思議に思って、Tさんの口座を見せてもらった。

 保有するほとんどの投資信託が値上がりしている中、2年で87%も下落しているものがあった。その名は「日本株3.7ベア」。

この投信、日本株が値下がりすると、その下落率の3.7倍のスピードで値上がりするよう設計されている。株が下がると確信した時に買うファンドだ。

予想に反して株が値上がりすると、その3.7倍のスピードで落ちていく。

相場が動かなくても、保有しているだけでジリジリと値下がりする。およそ長期保有に向かない投信なのである。

Tさんは、普通の日本株ファンドと勘違いしていたようだ。

「北朝鮮の有事→日本株暴落」シナリオで持ち続け、一発逆転を狙うのもひとつの手。でもやっぱり売却をお勧めした。投資額が少なくてよかった。

 強気相場はブル(牡牛)マーケット、弱気相場はベア(熊)マーケットと呼ばれる。元本にレバレッジがかかって値動きが増幅する「ブルベア型投信」には、くれぐれも用心したい。

 Tさんは、NISA口座を日本株アクティブ型1、日本株インデックス型2、外国株インデックス型2、新興国インデックス型1、外国債券インデックス型1、国内外バランス型3、そして例の日本株ベア型、計11本の投信で運用している。

 ざっと計算すると、日本株39%、先進国株21%、新興国株7%、外国債券25%、REIT(国内外)8%の配分になる。

 全体の6割以上を株式が占める、積極的なポートフォリオは好感が持てる。

アドバイスがあるとしたら、バランス型投信の代わりに、株・債券・REITのインデックス投信を個別に買った方がコストは下がる。バランス投信に支払う年0.5~1%の手数料を、0.2%程度まで下げられるはずだ。

また、余裕資金が多いなら、債券部分を課税口座で運用し、NISA枠は全額株式で運用した方が、値上がり時の実質リターンが高くなる。

トランプ大統領が、「法人税減税」というクリスマスプレゼントをくれた。アメリカが引っ張る形で、株高はもう少し続くかも知れない。

それでも、世界の株式はすでに相当値上がりしている。5年というNISAの期限内に利益を出せるか、今後はわからない。

その点、来年から始まる「つみたてNISA」は、投資期間が20年と長い。ブルベア型投信のような危険な商品も含まれないので安心だ。

 ランダムな株価の上下に一喜一憂するのは、感情の無駄遣いだ。買った投信を放置できるTさんの性格は、長期の資産形成に向いていると思った。いつも感じるが、投資に関しては女性の方が積極的だ。

 人のポートフォリオであれこれ考えるのは、とても楽しい。

2017年12月16日

ベトナム格安航空のウェブサイト


前に買ったベトナム株ファンドが、いつの間にか半値になっている。

新興国は、経済成長が株式市場に反映されない時期がある、ということだろう。

 でも、日本語教室で接する若いベトナム人は、みな明るくて働き者。彼らを見ていると、この国の将来が楽しみになる。

 この冬は、ちょっとベトナムへ。様子を見に行こう。

航空券の検索サイトを調べると、VietJetAirという格安航空会社(LCC)が安く、便数も多い。国営ベトナム航空に次ぐ第2の規模で、JALとも提携している。最低限の信頼性はありそうだ。

さっそくVietJetAirのサイトに飛ぶ。

 日本語サイトが存在するのは意外だったが、その日本語が変だ。

「※というマークのところには必ずちゃんと記入してください」はまだかわいいが、「あなたのフライトを選んだ時に、セルフな性能を追加できる」とはどういう意味だろう。「フライトイ情報」って・・・?

 かえってわかりにくいので、英語サイトへ。そのトップページ、セール運賃の案内の隣に、パイロットの募集広告が大きく出ている。

給料は、年$95000から$120000だそうだ。

 サイトをたどって、行きたかったベトナム中部の避暑地ダラットから、タイの首都バンコクまでの直行便を見つけた。プロモーションで運賃「$0」とある。

 タダほど安いものはない。さっそく予約に取りかかる。

名前、住所、電話番号、生年月日、メールアドレス、パスポート番号、有効期限・・・次々に記入欄が現れる。

途中でケータイが鳴り、数分後にサイトに戻ってみると、まさかのタイムアウト。便の選択から、全てやり直す。

 やがて追加料金の請求が始まる。空港税、燃油サーチャージ、預け荷物代、座席指定料、機内食と水、保険料、クレジットカード使用料・・・「PMT fee」「APPS surcharge」など、意味不明の料金も加算された。

 $0が、みる間に$58になった。これがLCCのビジネスモデルだ。

 それでも、1000キロを飛ぶ1時間45分のフライトでこの料金。半日がかりで計3枚のチケットを買ったが、他の2区間はそれぞれ額面$18が最終的に$81、$8が$34になった。

日本やアメリカは、航空会社の寡占化で運賃が高止まりしている。それに比べれば、アジアの空は健全だ。去年ミャンマーを旅したが、最近まで鎖国状態だったかの国さえ、ここ数年で民間航空会社が10社以上も誕生していた。

 バンコク時代に出張で行って以来、10年ぶりのベトナム。その後の経済成長で、まるで別の国になっている気がする。

その変わりようを、この目で見るのが楽しみだ。


2017年12月9日

コーヨーさん


 白杖をつくMさんを助手席に導き、市立病院へ。
 途中、救急車が対向車線を突進してきた。この街の救急車は、とてもアグレッシブ。

サイレンを聞きながらMさんが言う。

「オレも2回ばっか救急車の世話になったらしいんだけどさ、自分ではぜんっぜん覚えてないのよ。急に記憶がなくなって、気がついたら病院のベッドで素っ裸にされてた。ハハハハハ」


 とりあえず一緒に笑う。今日は脳外科に行くらしい。



 近くのスーパーをブラブラしていて、移送ボランティアの会長に出くわす。東京にいた頃と違って、「スーパーでばったり」が簡単に起こる町だ。

「コーヨーさんが亡くなったわよ」

 会長は言い、買ったばかりのマロンパイを私の手に押しつけて出ていった。



 コーヨーさん・・・

 この春まで、何度か病院に送迎した。酸素ボンベが入った買い物カートを引きずりながらも、自分の足でしっかり歩いていたのに。

 いつもはおしゃべりな娘さんが付き添う。一度だけ、車内でコーヨーさんと2人きりになった。「珍しいお名前ですね」と言ってみた。

 帽子の下の、剃った頭には理由があった。彼女は尼僧だった。晃蓉と書く。

48で出家し京都の寺へ。修行で山野を駆け、滝に打たれたという。

「お坊さんの何が大変かって、怒りたい時に怒れないのが修行より辛いわね」

「葬式や法事より、車の安全祈願ばっかりやってた。でも息子を亡くした時だけは、自分でお経をあげたわよ」

 あの時の会話が最後になってしまった。



ついこの間話をした相手が、あっけなくこの世を去ること度々。

命の脆さに直面して、今更ながら自分のしていることが怖くなる。

重い病のこの人たちを、気安く車で運んでいいものだろうか。何の資格もないボランティアが。



ほんの時たま、わが会長も愚痴をこぼす。

「私たち、障がい者や病気の人を送迎して、ガソリン代プラスαのお金を頂くでしょ。そうすると『ボランティアなのに金を取るのか』って顔する人がいて。嫌になっちゃう」

 そう言いながらも、一期一会を大切に、かれこれ20年近く活動を続けている。

 湘南のマザーテレサである。


2017年12月2日

ハワイは楽園


 ハワイといえば、芸能人の御用達。まさか自分は行かないと思っていた。

 新聞社にいた頃の、ある日曜日。前夜は宿直で会社に泊まり、眠い目をこすりながらテレビをつける。すると、テロップが流れた。

「漁業実習船と米原潜がハワイ沖で衝突 行方不明者多数」

 たまたま数か月前に米国出張に行き、アメリカの取材ビザを持っていたのが運の尽き。そのままホノルル行き便に乗った。

 こういう時のために、パスポートは会社に置いてある。因果な商売だ。

 真冬の東京から常夏のハワイへ。着替えを買う間もなく、その後の数日間を長袖シャツとコーデュロイのパンツ、といういで立ちで過ごした。

 この事故で実習船は沈没、高校生ら9人が亡くなった。家族の到着から、米潜水艦艦長を裁く軍事法廷が始まるまで、ひと月をハワイで過ごした。

 観光シーズンたけなわで、ホテルの空き部屋探しには苦労した。ひと晩、ふた晩とホテルを泊まり歩いた。

 そのうち我がロサンゼルス支局長が、悠然と到着した。取材班に「ハレクラニ」という、妙な名前のホテルを手配してくれた。

 中庭では毎日、日本人カップルが結婚式を挙げている。ウェディングドレス姿の新婦の脇を、私はいつも撮影用の脚立を担いで駆け回っていた。

 帰国後その「ハレクラニ」が、ハワイ随一の格式を誇る高級ホテルであることが判明。何も知らずに2週間も泊まってしまった。

 ある時、他社のエースカメラマンとされる人物が、憔悴しきった遺族に向けてストロボを連射させた。撮らなくていい場面で。ニヤニヤ笑いながら。

あの時ほど、報道カメラマンという自分の職業を呪ったことはない。

殺伐とした取材現場に、時おりとても心地よい、乾いた海風が吹き抜けた。

確かにハワイは楽園だ。認めたくないけど。

TraveLife」(マガジンハウス)の著者、本田直之氏は1年の半分をハワイ、3か月を東京、2か月をヨーロッパ、1か月をオセアニア、アジアなどの国で暮らす。

 張り合うわけではないが、私も1年の7か月を湘南、3か月を信州、2か月を東南アジアで過ごしている。

 彼は会社社長。私はただのプー太郎。

 著者によれば、ハワイのエレベーターの多くには「閉」ボタンがない。「閉」ボタンがなければ、押すのを諦めざるを得ない。せっかちな日本人も、だんだんのんびりしてくるという。人の気持ちは伝染する。

「忙しくない街を旅して、人の優しさに触れよう。そして、自分自身も持っているナイスな気持ちを思い出し、ゆったりした自分を取り戻そう」同感だ。

 この冬から日本~ハワイ間にLCCが就航し、往復2万円台のキャンペーンを始めた。本当に「閉」ボタンがないか、行って確かめてこようと思う。


肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...