移送ボランティアで、Kさんという男性を自宅に迎えに行った。
海の近くの老人ホームまで、入所している奥さんに会いに行くという。
「いつも帰り際、私も連れて帰ってと泣かれてね」
ある時、Kさんの行き先が病院に変わった。
奥さんが脱水症状で入院したらしい。食べられなくなり、水も飲まないという。
車中でKさん、堰を切ったように話し出した。
「明日は胃ろうの手術なんだけどね、まだ本人に言ってないんだ」「延命治療はしないで、と前に言われたんだけど」「このまま妻が干からびていくのは、見るに忍びなくて・・・」「息子も同意したんでね」
「でも本当の問題はこのあとだ」「前に入院した時、処置が終わったら早く退院して欲しいと言われた」「果たして、あの状態の妻を受け入れてくれる施設があるだろうか」
話に気を取られて、曲がるべき交差点を直進してしまった。
やっと病院に着くと、足の悪いKさん、杖にすがってヨタヨタ歩いていく。
「入り口に車いすがあるから便利だよ」
「車いすに乗りますか? 押しましょうか?」
「いやいい、自分で押す」
空の車いすを押しながら、病棟に入っていく。その方が、杖より安定するのだろうか。でも後ろ姿が危なっかしい。
「縮小ニッポンの衝撃」NHKスペシャル取材班 講談社現代新書
最新の国勢調査で、日本の人口が初めて減少に転じたことが確認された。私たちはいま、歴史の大きな節目に立っている。
そして同書によると、東京オリンピック後の2025年には、東京圏でも人口減少が始まる。しかも人口は高齢化していて、75歳以上の3分の1が東京に集中する。
その結果、介護施設に入ることができない「待機老人」、医療機関の受け入れが困難になる「医療難民」が劇的に増加するという。
さらに、東京では一人暮らし世帯が全体の47%を占める。身寄りのない高齢者がいったん入院してしまうと、退院した後に自宅での一人暮らしを続けることが難しくなる現実がある。
「これから7~8年という短期間に、解決困難な問題が一気に顕在化すると、社会保障の専門家や医療関係者は指摘している」(本文より)
最近、Kさんからの送迎予約がばったり途絶えた。肝臓を壊して、奥さんとは別の病院に入院したという。今だに連絡がない。
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