2017年9月9日

クライマー村の人々


 八ヶ岳の麓に、山登りが好きで都会から移り住んだ人たちのコミュニティーがある。

 我が森の家から、村をひとつ挟んだ隣町。車で1時間ほどの近さだ。

ソバの花とコスモスが競演する秋の日、コミュニティーで暮らす夫婦に会うことができた。近くの古民家カフェで話を聞いた。

 最近結婚した2人は、ともに30代。夫はこの夏、友人とヒマラヤへ行き、40日かけて6000メートル峰の垂直な岩壁を初登攀した。

 帰国後すぐ、国が主催する登山研修の講師として北アルプス剣岳へ。テレビ局から依頼を受けて、国内外の険しい山で撮影をこなすこともあるという。

妻は旅行会社勤務の後、フリーのツアーコンダクターに。この夏はお客さんを連れて、コーカサスやドロミテ、カムチャツカの山を案内した。

八ヶ岳山麓の自宅に戻れば、野菜作りに精を出す。今年はトマトが食べきれないほど採れた。

そして、来月は夫婦でヨセミテへ。岩壁の下にテントを張り、クライミング三昧の日々を送る予定だ。

好きな山に住み、好きな山登りで収入を得て、好きな時を休日にして山に登る。ふたりは、そんな暮らしを実現させている。

もちろん病気やケガに見舞われれば、収入がなくなる厳しさはある。その時は一方が生計を担うのだろう。コミュニティー内でも、お互い仕事を融通し合っている。山岳ガイドで生計を立てている仲間が多い。

不安定なようで、あんがい安定して見える。

小さな仕事をつないで暮らすのは、地方ではそれほど難しくない。私も最近わかってきた。東京で暮らしていた頃は想像もできなかったが、こちらで人とつながっていると、口コミで仕事が降ってくる。

都会のサラリーマンが収入をひとつの組織に依存するのと、どちらが安定しているか。一概には言えないと思う。

あるいは、賃金の高い東京で「自分の意思で」長時間労働する時期と、地方で家庭生活を大事にする時期を選べれば、なおいい。

物質的なぜいたくの代わりに、水や空気、食べものの新鮮さ、時間的なゆとりを優先する。そんな価値観を持つ人には、彼らの生き方が参考になる。

ふたりの友人はこの秋、小学生のわが子を人に預けて、海外の山登りに発つ。好きなことを優先する親を見て、子はどう思うだろう。

一時は寂しい思いをしても、「子どものために」我慢して長時間労働する、ストレスだらけの親の元にいるよりは幸せなはずだ。


「この国には何でもあるが、希望だけがない」(作家の村上龍)

もっと大人が好きなことを大切にして、笑顔になる。その笑顔を子どもに見せることが、この国の希望を作っていくことなのだと思う。


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