信州の森は都会より10度ほど気温が低い。家にテレビがなくネット環境も悪いので、読書にはよさそう。
でも標高が高く酸素が薄いので、頭がよく働かない(元々?)。
差し引き・・・ゼロ。
「ヒルビリー・エレジー」J.D.ヴァンス著
白人労働者階層に生まれ、ラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる米オハイオ州で育った31歳男性の自伝。ラストベルトといえば、あのトランプ大統領の支持層。どんな人たちなのか興味津々で読んだ。
著者J.D.の母はひんぱんに夫を代え、家庭ではケンカが絶えなかった。家具が揺さぶられる音、どしどし響く足音、叫び声、時にはガラスが砕ける音。「まるで地雷原で生活しているよう」な日々。
11歳の時に、母が自殺未遂。幸い一命を取り留める。
高校1年の朝、身を寄せていた祖母の家に母がやってきた。「クリーンな尿をくれないか」。看護師免許の更新で、尿検査があるのだという。
母は薬物依存症になっていた。
結局、著者が成人するまでの間に、父親が4回入れ替わった。
隣近所でも失業、貧困、離婚、家庭内暴力、ドラッグが蔓延した。懸命に働くこと、教育を受けることで人生が変わることを示してくれる存在もいない。著者は、学校でいい成績を取るのは女々しいことだと思い込んでいた。
朝はシナモンロール、昼はタコベル、夜はマクドナルドの食事。炭酸飲料の飲みすぎで、歯がボロボロになる幼児たち。著者が生後9か月の時、母が哺乳瓶にペプシを入れるのを祖母が目撃している。
世界的に人の寿命が延びる中で、アメリカ白人労働者階層の平均寿命だけが下がっている。一部地域では67歳。
このような環境の中で、著者はひとり全米屈指のロースクールに進み、やがて企業経営者になる。それを可能にしたのは、祖母の存在だった。
祖母は若い頃、牛を盗もうとした男の足を銃で撃ち抜き、とどめを刺そうとしたところを親戚に止められた。殺人犯になりかけた人だった。そんな彼女が著者を家に引き取り、飽きることなくこう言って励ましたという。
「お前は何だってできるんだ。ついてないって思いこんで諦めてるクソどもみたいになるんじゃないよ」
日本では報じられることのない、アメリカ白人労働者階層の暮らしぶり。この本が全米ベストセラーになったということは、多くのアメリカ人もこんな世界があることを知らないのかも知れない。
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