2017年8月12日

湖畔の宿で


 湖畔の宿でのアルバイト。客室清掃と皿洗いから始めて、早くもフロント係に出世した。

 ピンチヒッターとして1時間、夕暮れのフロントに立った。

 時はお盆の繁忙期。宿は予約でいっぱいだ。猛暑の都会から、お客さんが続々到着する。「涼し~い!」と叫ぶ言葉に、実感がこもっている。

 所在なさげに立つにわかフロント係にも、お客さんの質問は容赦ない。とてもまともに応対できないのだが、オーナーのTさんは厨房だ。

覚悟を決めて、ひとりフロントを死守する。

「山登りに来たんだけど、明日の天気どう?」

「・・・ここ数日、曇り時々晴れ一時雨です。明日も変わりやすいかと」

「もうすぐドラえもんの時間だけど、テレビちゃんと映るの?」

「・・・たぶん映るかと思われます」

「プレイルームのおもちゃがなくなって、子どもが騒いでるんです」

「・・・他のお客さんが持ってっちゃったかも」

「宿の外でもwifi つながるかな」

「・・・やってみて下さい」

「今晩の花火大会、車を停める場所あるの?」

「・・・行けばどうにかなると思います」

「バーベキューの食材まだ?」

「・・・いま野菜切ってます。まもなくお持ちします」

 みな、腑に落ちない顔をしている。野菜を切り終えたTさんと交代して、やっとフロント係をクビになった。

 Tさんの接客ぶりは、さすがのひと言。フレンドリーに、それでいて要点を抑えた案内をする。会話が自然で、お客におもねることもない。海外を多く旅して、サービスの何たるかを心得ている。

でもTさん、「本当は殻に閉じこもっていたいタイプです」などという。

宿泊客の人たちは、想像以上にきれい好きだ。チェックアウト後の部屋は、布団がきれいに畳まれて、ゴミひとつ落ちていない。

ゴミ箱の中にさえ、ゴミひとつない。みんな持参のレジ袋にまとめて、廊下の「燃えるゴミ」に入れて帰るようだ。

ここはドミトリー(2段ベッドの相部屋)もある廉価な宿なので、客層もごく普通の人たち。

立つ鳥跡を濁さず。おそるべし、日本人の公衆道徳。




チェックインの際、「大したものじゃないけど」と、紙袋を差し出すお客さんがいた。中身は立派なゼリー詰め合わせ。Tさんに聞くと、初めて泊まる人だという。

 ドスの効いた話し方をする強面の男性客は、無言で宿の周りの草刈りをして帰ったらしい。

おそるべし、日本人の礼節。

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